不定期刊行             16  2002.7.1

中信高校山岳部かわらばん

編集責任者 大西 浩

木曽高等学校 定時制

 

夢の形・・・経ヶ岳の登山道復活事業

経ヶ岳(2296m)は権兵衛峠の北に位置し、中央アルプスの北のはじにそびえる堂々たる独立峰です。南信地区では大会にも使ったりして最近では馴染みの山ですが、それ以外の地区の方は知らない方も多いかもしれません。1992年秋、この経ヶ岳へ、辰野町の横川渓谷から黒沢山を通って登る登山道が復活しました。そして、この登山道の復活を手がけたのが信高山岳会です。このあたりのいきさつは、信毎から出版されている「こころの山旅」という本の中で、信高山岳会の現会長伊澤先生が書いていますので、ご存じない方のために少し引用させていただきます。

 

  信高山岳会が、ここに登山道を開こうとしたいきさつは、会の創立十周年を迎えて、何か記念事業をしよう、それも登山以外の方法でということからだった。登山道をつくるということは、小さいながら「地図に残る仕事」である。

  経ヶ岳への登山道はかつてはいくつかあったが、廃道になったところが多く、最近は伊那市羽広からのコースだけになっていた。私たちの計画は、辰野町側の横川渓谷の支流黒沢谷沿いの廃道を復活させ、黒沢山と経ヶ岳の主尾根に出て、羽広からの登山道に合流させようというものだった。総延長は約七キロに及ぶ。

  経ヶ岳は高校山岳部のトレーニング登山や一般の登山にあった山だったが、高校山岳部が登ったところ、道が無くなっていて、引き返す例もあったりしていた。それに教師たちが、ただ登るだけでなく、登山道を開いたり、整備をすることは、高校生の登山にひとつのあり方を示すことになると考えた。(こころの山旅より)

 

  復活とは言いながら、それは新しい道をつけていくのと何ら変わりのない作業でした。沢筋では、冷たい水に腰までつかりながら、何ヶ所も丸太橋をかけ、唐鍬(トンガ)を揮っては山を削り、背丈を越す熊笹の薮では、先頭が大鎌振るって道の方向を決めていき、その後を慣れない腰つきでビーバーを振り回して、人が通れる幅で刈り払っていくのです。振り返ると自分が通って来た通りに道ができています。そんな自分たちがつけた細い道が、次に行くときには、知らない誰かに踏まれ、少しずつ道らしくなっていくのです。

  「道は人が歩くことによって道になる。」そんな私たちの仕事が地元の新聞に取り上げられると、辰野町の人たちも我が町の山だからと協力してくれるようになりました。初対面の人であっても、一緒に作業をしていると話もはずみ、仕事も進みます。こうして、総延長七キロの道が二年がかりで完成したのでした。1992年秋には完成祝賀会が行われました。

  今では、毎年七月二十日に辰野町主催、信高山岳会主管で、開山祭が催されるまでになり、多くの人に愛される道になったのです。

ビーバーと笹刈りの一日

しかし、登山道の整備というのは単年度の事業というわけにはいきません。崩れた箇所の補修や、橋の掛け替え、笹刈りなどメンテナンスも必要です。幸い、この事業には地元辰野町の方々も積極的に協力してくださり、毎年この祭りを前に、信高山岳会が主管(主管とは言え、実情は町の方やボランティアに大いにお世話になっています)して登山道の整備作業を行なっています。中心になって音頭をとるのは、信高山岳会のこの事業の担当者で辰野町に住み、箕輪工業高校に勤務している川島先生。

そして、今年の第1回目の作業が6月29日に行われました。参加者は、川島先生のほか、信高からは風越の久根さんと私の3人、それに地元辰野町の役場に勤めるイワカガミ会の飯沢さんと小沢さん、諏訪山岳会から若尾さんの総勢6人。この日の作業は上部の笹刈りということで、大泉ダムのほうから各自ビーバーを一台ずつ持って入山。作業場の起点である9合目の黒沢谷登山道と羽広からの登山道との合流点まで登りました。長いビーバーは、とんまわしも厄介な上に、同行の仲間にあたると危険だし、何より完全に背負えないので重さ以上に大変です。6時に登山口を歩き出し、延々4時間、やっとのことで作業場に到着。これだけでも相当の消耗です。

10時、若干の腹ごしらえをし、「12時まで、2時間を目安に。」作業を開始しました。静かな山にビーバーのエンジン音が響き渡ります。ここから黒沢山までの区間はとにかく笹が深く、登山道をつくった当時も随分難儀をしました。しかし、開通から10年、毎年の作業と登山者が歩いてくれるおかげで、当初に比べれば作業は雲泥の差。ところどころ笹が覆って深くなっているところや、道が狭くなっているところを笹を刈っていきます。この区間はアップダウンが何ヶ所かある上に、慣れない仕事、ガス欠になって燃料補給に戻るのにも骨がおれます。やりはじめると、思わず時の過ぎるのを忘れてしまいます。そんな中、役場の方や若尾さんも黙々と働いてくれます。12時までの予定だったのが、結局黒沢山にたどり着いたときには、時計の針は1時15分を指していました。しかし、笹刈りをしなければ往生する箇所が、今年も整備され、立派な道となりました。

20日にはきっと今年も大勢の方がこの道を歩いてくれるだろう、そう思うとなんともいえない充実感が湧いてきました。今笹を刈った道を再び登り返し、自分たちでその感触を確かめて、羽広からの道に合流し、作業を終了。帰りは疲労困憊。やっとの思いで登山口にたどり着いたのは午後の5時近く。疲れはしましたが、みんないい顔をしていました。まだ訪れたことの無い方、いい山です。ぜひ一度こんな話もしながら生徒と訪ねてみて下さい。

編集子のひとりごと

ワールドカップで浮かれている間に7月に入りました。梅雨が明ければ夏山シーズン到来、というわけで経ヶ岳の登山道の話題を取り上げました。登山道の整備作業は来る6日にもう一度行われます。信高会員はもちろん、そうでない方でも興味のある方はご参加下さい。ジュニアクライミング講習会の方も、29日に第2回目が松本で行われ、10名程度と人数は少なかったものの有意義だったとの由。ぜひこの取り組みを継続的なものにしていきたいものです。(大西 記)