不定期刊行             

20  2002.7.29

中信高校山岳部かわらばん

   編集責任者 大西 浩

                             木曽高等学校 定時制

県下の山岳部におけるクライミングの流れ その5(承前)

16人が集まったこの会議では、クライミングを実際にやっている人と、そうでない人の間の温度差は相当なものでした。だから話の当初は、「現在クライミングをどう普及していくかということは、喫緊の課題であるが、いろいろな立場の顧問の認識の差を埋めるために意見交換をして、県内の高校山岳部のクライミングに対する方向がうすぼんやりとでも見えて来ればよし。よしんばそこまで進まないとしても、多くの人にこのような世界があるということを知ってもらえるだけでもよしとしよう。」僕自身はそんなつもりで数年先に高体連として動き出せるための第一歩が踏み出せればと考えて、この会議に臨んでいました。それが、まさか一気に今年の黒姫での県大会の3日目にクライミング体験という形で実現するとは思っても見ませんでした。

とにかくクライミングについて「知らない、やったことない」先生方にどのようにこの世界を広めていけばいいのか。そういう顧問の先生の意見を聞く中で、土壌をどう作っていったらいいのか僕は考えていました。すると、話の中では、現実に触れる機会の少ない生徒や顧問に対してわかってもらうためには、とにかく多くの生徒・顧問が集まる場面でクライミングを体験してもらうことが有意義であろうという意見が多く出されました。しかし、今までは実際にそういう場面を作るために高校生向けの講習会を開いてもなかなか集まってくれない実情があったのです。だから実際にそういう場面だけを作っても、また集まってきてくれるのは同じような顔ぶれだろうという堂々巡りの議論が、僕の頭の中を回っていました。

そこで提案されたのが、従来県大会の3日目に行っている「交流登山」の部分にクライミングを取り入れられないかという意見でした。全県の山岳部の生徒が一堂に会する県大会でクライミングを体験する場をもてないかということです。僕には最初、それは荒唐無稽なアイディアに思えました。今思えば、それは非常に発想の狭い貧弱な考えだったのですが……。当初出されたのは、大会3日目に1、近くの自然の岩場に移動して行う2、アートウォールまで移動する3、仮設のボードをテントサイトに立てる という3つの案でした。前二者の考え方は時間の制約や移動のことなどから、当然のことながら無理だろうということになりました。そして、残った第3のアイディアについては、全く具体的ではありませんでしたが、結果としてやれるやれないに関わらず、3日目にクライミングをできる方向で加藤先生(当時専門委員長)や竹内先生(現専門委員長)は進めてみたいということを方向として打ち出し、その内容が合意されました。ただし高体連としては、金が出せません。その制約の中で、宮本先生(中野実業・長山協副会長)が長山協からもバックアップしたいということと、具体的に仮設のものを作るために森山さんに交渉してみようという約束をしてくれました。僕自身はこの時もまだ、具体的に仮設の移動のできる人工壁というものがイメージできず、金の問題とも相俟って、決まりはしたものの実現は困難だろうと思っていました。(以下 次号)

国体山岳競技に参加して

先週の土日、福井県で行われた北信越国体山岳競技に参加してきました。むしむしした暑さの中、選手諸君は全力で戦いました。結果はオープン参加の成年男子を除き、成年女子が1位で本国体出場権を獲得、少年は男子が2位、女子が3位といずれもあと一歩のところで、涙を流しました。国体のことはご存じない方も多いかもしれませんが、今年から競技内容が大きく変わりました。競技の客観性をということで、今年から踏査競技が廃止され、さらに少年の部にクライミングが導入されたのです。

長野では、現実の高校段階での対応がこの変化に追いつけていないと思われるのですが、参加しての感想を若干書いてみたいと思います。国体は社会体育の範疇であり、選手の選考から育成などは長野県山岳協会の国体委員会が仕切っています。かつては縦走には天気図審査や設営などもあり、高体連の大会と共通する要素も多かったのですが、今は全く異質の競技となっています。高体連としてもコーチ部を組織してバックアップしたりもしましたが、ここ4年ほどはその方向性が高校の山岳部の活動とどう関わるのかが見えなかったので、私自身は少し覚めた目で見て、引いていました。

しかし、今年は去年までとは長山協の競技部の考え方のスタンスに変化があります。それは、将来の山岳人をこの国体からも育てようという基本がより前面に出てきているということです。「アスリートの世界の競技」と「高みを目指す登山」にはどうしても目的や動機などさまざまな相容れない部分があり、それはみんなわかっていました。しかし、ここ数年は、選手選考や練成においては前者にのみポイントを置き、進んできました。もちろん競技ですから、勝ち負けは必ずついて回りますが、それ一辺倒が山岳部無視、国体嫌い、ひいては山嫌いを作るのでは本末転倒です。しかし、踏査が廃止され、クライミングが導入された今、高校の山岳部に逆に活躍する場が出てきたのです。長山協も顔ぶれが変わり、高体連登山部の立場には理解がある宮本さんが競技部長に、浮須さんが国体委員長になりました。山岳部の活動に少しでもプラスになるように、またこれにより山をますます好きになってくれるようにという願いで、4月以降選手選考や練成を進めて来、僕自身も協力を要請されました。それは、僕がかつてコーチをしていた時代の流れと同じなので、今年は積極的に協力してきました。

そんな中で、今年の国体には県大会で始めてクライミングを体験した長野吉田の野村さんや、美須々ヶ丘の清水さんがわずか2ヶ月のキャリアで少年女子として出場し、クライミングは2位と頑張り、男子も岡谷工業の牛山君が健闘しました。僕は成年女子の監督で参加しましたが、これは以前僕が監督をし、当時は少年女子で出ていた松岡さん(中野実業卒)が大学を卒業して戻ってきて、7年ぶりに国体をもう一度やりたいと頑張っている姿に触発されたからです。決して僕らがかつてやっていたことが山嫌いを生んではいなかったのです。確かに普段の山登りとは異質な部分もありますが、こうして楽しんで自分の限界に挑戦している姿には、感動を覚えます。

編集子のひとりごと

暑い夏がやってきました。各校夏合宿の準備は進んでいるでしょうか。それにつけても福井の山は暑かったです。残念ながら本国体への出場権は逃しましたが、高校生の活躍は感動的でした。監督の小林國さん、村主さんお疲れ様でした。(大西 記)