不定期刊行             42  2003.1.29

中信高校山岳部かわらばん

    編集責任者 大西 浩

                             木曽高等学校 定時制

山岳総合センターの講師講習会、紙上伝達講習@

25日、26日の2日間山岳総合センターの講師講習会が今年は鹿島槍の東尾根の下部の沢とセンターを会場に行われた。今回高校関係の参加者は僕と今滝先生(南安曇農業)の二人であった。今回の主たる研修課題は、雪崩に関する内容だ。毎年、この時期に行われており、僕自身はここ数年ずっと出てきているが、そのたび自分の未熟さを感じさせられることしきりである。自分自身の勉強のためにも、この紙上で伝達講習をしたい。紙上ゆえ、わかりにくい点があるかと思うが、その辺は読者諸氏の想像力で補ってほしいし、不明な点やおかしいと思われる点があれば、ご指導いただきたい。

2日前の23日の大雪に覆われた道は山スキーを履いても、膝まで潜る深雪。そんな中をラッセルを交代しながら、小一時間。研修場所へ到着した。

初日午前中は、まずスノーピット(雪穴)を掘って、雪の調査、雪質の観察を行った。地面が出るまで掘ることおよそ2m20cmほど。積雪層は上から1m新雪があり、その下に霜ざらめ層が2層、さらにその30cmほど下部にもう一層霜ざらめ層があった。最上部の1mはいうまでもなく23日の新雪であり、表面から60cmほどのところに不連続面が見られたが、弱層を形成するほどではなかった。23日の夕方やや小降りになった時期があったが、そのときの降り方の変化で形成されたのだろうと思われる。

この日は天気がよかったせいか、雪温は総じて高く、湿雪といいうる状態であった。表面付近が−3.9度、表面から50cmのところで−3.4度、以下100cmで−2.6度、150cmで−2.3度、地表面より20cmでは−1.8度程度であった。弱層になりうる霜ざらめ層は積雪2cmにつき温度上昇が1度あれば、できうるということだから、講習の日の条件では表面に新たな霜ざらめ層は形成されないということになる。断面にインクを吹き付けたり、バーナーで焼き付けたりすればその密度により色に変化が見られるが、今回の雪の断面にも霜ざらめ層がはっきり筋となって現れた。この霜ざらめ層は指を突っ込(ハンドテスト)んでも、その存在はわかる。今回の積雪の中には、この霜ざらめ以外に弱層となりうる表面霜や霰などは観察できなかった。

続いて弱層テストを行ったが、上から1mの新雪の変わり目に弱層があり、簡単にせん断された。さらにその下の霜ざらめ層との境目も弱層になっており、そこをルーペで観察すると、やや細長く角ばった結晶をみることができた。おそらくこれが霜ざらめなのだろうが、書物などにあるようなはっきりした霜ざらめの結晶であるかどうかは、経験不足なのだろうか僕にははっきり確認できなかった。

午後はビーコンを使った捜索の訓練。その場の状況をいちはやく判断し、きちんとした方針を立て、捜索し、掘り出す。言えば、これだけのことなのだが、パニック状態の中で、これを15分以内に行うというのは、よほど訓練していても難しいということを実感した。まず第一に重要なのは、よく見ることだ。流された人間が最後に見えなくなった地点はどこか、2次雪崩のおこる可能性はないか、一体何人が流されたのか・・・。次いで大事なのは、捜索のリーダーを決め、きちんとした方針をたてること。そうでなければただの烏合の衆である・・・。その上で、2次雪崩の発生にも注意しながら、ビーコン、ゾンデ、雪上の残置物等の情報を総合的に判断して、一刻も早く掘り出すこと。これがいかに困難なことか。改めて実感した。

その後、山岳センターに戻り、机上講習。これについては次号でまとめたい。

翌日は、前日の反省にたって午前中は再度ビーコンを使って実戦的な捜索の訓練。想定は「50mの幅の雪崩が沢の上部で発生し、4人が流され、枝沢との合流点までは流されるのが見えていたが、雪崩はそのまま本流との出合までおよそ1キロに及ぶ長距離を走った。それを残された10人で捜索する」というものであった。そのとき立てうる方針はどんなことだろう。以下箇条書きで書く。「@見張りをたてるA枝沢との合流点まではいち早く下るBそこから先行した一人は雪崩の真ん中を下りながらビーコン捜索をするCビーコンの動作範囲は50mなので、右半分と左半分の捜索を明確にわけ、上からなめていくD埋められた人数が多いので、ビーコン反応が顕著な地点または残置物の発見された地点ごとに2〜3人ずつで掘り、残りはさらに捜索を続ける。」実際には距離が長いため、@についてはうまく機能しなかった。Aはスキーだったが、合流点まで下るのに手間取り、人により時間差が生まれてしまった。BCDその時間差によりせっかくの人海戦術が効果的に使えなかった。大雑把にまとめるとこんな感じで、結局最後のビーコンを掘り出すまでには45分が経過していた。(・・・これじゃ講師としては失格ですね・・・。)実際の場面ではと思うとぞっとする。

最後は搬送訓練。今回はスキー4本を使ってそりを作り、けが人を搬送した。今までツェルトでの搬送は経験していたが、僕自身はスキーそりは初めて作ってみた。感想として、スキーそりはきちんとできさえすれば、非常に有効であるとわかった。その作り方などはものの本などをみてもらうとして、今回勉強になったのは、そりをつないだ紐が緩まないようにするためには、つないだ紐に紐をかけて(対角線上に)締めることで最初の紐が締まり、そりはより頑丈になるということだった。この繰り返しで紐はどんどん締まり、そりはしっかりしてくる。いわれてみれば他愛のないことだが、こういうことが、技術書などでは見られない技術を超えた知恵とでも呼ぶべきものなのだろう。雪についてもたとえば、弱層を形成するのが「@雲粒なしの降雪結晶、A霰、B霜ざらめ、C濡れざらめ、D表面霜」だなんて頭で知っているだけでは屁の役にもたたない。

  編集子のひとりごと

まずは、雪崩を知ること。そのためには、昨年2月、山と渓谷社より発刊された北海道雪崩事故防止研究会編「決定版 雪崩学」が必読の書と言ってもいいだろう。7年前に発行された「最新版 雪崩学入門」をベースに、新しく書き下ろされた部分も多い。今回の講習会にはこの本の事前学習も課されていたが、書物の上での理論だけではなく、それを山の中で体験的、実戦的に学ぶことができたと思っている。

とはいえ、今の自分が雪崩にあったとき、果たして的確な判断が下せるかどうかは、はなはだ疑問である。実際雪崩は夜昼問わず、尾根も谷も関係なく発生する。それでは、少しでも雪崩の可能性を回避するために、また雪崩の発生を予測するために我々はどのような行動をとればいいのか・・・そのあたりについては、センターで行われた机上講習をもとに、次号でもう一度考えてみたい。(大西 記)