不定期刊行             43  2003.2.1

中信高校山岳部かわらばん

    編集責任者 大西 浩

                             木曽高等学校 定時制

山岳総合センターの講師講習会、紙上伝達講習A

今回の主任講師は、センターの顧問で前文部科学省登山研修所長の柳沢昭夫氏である。初日山での講習を終え、センターに戻って講義とディスカッションが行われた。まず講義の内容を、「決定版雪崩学」も参照しながらピックアップしてみる。

@        斜面に降り積もった雪は常に動いており、下部へ引っ張る力は強い。

A        全層雪崩・・・春先、雨が地表面までしみて泥状になり滑り面ができて発生。

B        スラッシュ雪崩・・・雨がしみ、内部の氷盤上に水分を含んだざらめ状の雪が形成され滑り落ちる。

C        表層雪崩・・・雪温が−10度程度までは湿雪、それより低くなれば乾雪。雪崩は最初に崩れた直方体状の雪が前の雪を巻き込み、どんどん圧縮していくため、雪が乾いていればいるほど(雪温が低ければ低いほど)、中に空気が多く含まれていて比重が軽いので、スピードが速く、煙型になり、直進性が顕著で、流れる距離は長くなる。したがって、比較すれば湿雪はゆっくりで沢筋に沿って走ることが多いが、乾雪の場合は枝沢から発生し、そのまま直進し、尾根を乗り越えることも決して珍しくない。現に尾根で雪崩にあったケースも多い。したがって、湿雪か乾雪かをまず判断した上で、入り込むタイミングとルート取りを検討することが重要である。

D        雪が降り出すと雪崩の可能性は生まれるが、ある程度落ちてしまえば発生はとまる。

E        乾雪表層雪崩の場合、気温の上昇が雪の状態を安定させるので、日が登り暖かくなれば、安全になる。(ただし全層雪崩や湿雪点発生表層雪崩はこの限りではない)

F        弱層

1                濡れざらめ・・・強い日射を受けた表面にできる。

2                表面霜・・・・・夜間の冷え込みが厳しく、若干の風があり、表面霜が形成され、そこに日が当たる前から降雪があれば弱層になる。→移動性高気圧のあとの前線通過に伴い、急激に冬型になったような場合が考えられる。

3                霜ざらめ・・・・固くしまった雪の上に新雪やこしまりのような密度の小さい雪の層があり、そこに昼間の日射があり、十分内部まで暖められたあと、夜間の放射冷却で表面が急激に冷え込むと、積雪層内部に温度差が生まれる。積雪層の中で、1mにつき5度くらいの温度勾配があると、内部の水分がどんどん昇華蒸発し、表面近くの新雪やこしまり雪は水分を含み凝結し、表層に霜ざらめ層が形成される。→晴天が続いて冷え込んだ時があり、その後積雪があったようなときにはこの弱層ができている可能性が高い。

4                六花降雪結晶・・風も無いような時に、穏やかな感じでひらひらと舞うような感じで降り積もった雪は、雲粒がついていないため結晶表面はなめらかで、斜面に平行に積もり、隣の結晶との間に接触点が少ないため焼結しにくい。→温暖前線通過後の擬似晴天などのときにひらひら落ちてくる雪。

5                霰・・・・・・・普通の雪と違って接触点が少なく粒同士の結合が弱く、バラバラな状態が長く続く。→寒冷前線通過時の発達した積乱雲から降ってくることが多い。

 以上、柳沢氏の講義を自分なりにアレンジして、まとめてみたが、次いで行われたディスカッションは「雪崩発生を予測する」という観点で@地形、植生A雪質B降雪量C天候D登山者のなすべきことについて各自が考察したものを発表しあい、その上で講師としてE「何をどうやって教えるか」を考えた。

雪崩発生を予測する(主なものを挙げてみる。決してこれだけではないし、必ずしも分類にあっていないものもあるがご容赦を・・・念のため)

@        地形、植生

        乾雪雪崩は直進性があるので、尾根といえども安全ではない。

        上部を見て雪崩の走路を予測する。

        植生が雪崩経歴を語っている。(例;ダケカンバ帯はそれほど遠くない過去に雪崩があった。樹林帯は裸地よりは安全だが、100パーセントとはいえない等)

A        雪質

        弱層テストをし、内部を観察する。

        乾雪か湿雪かで雪崩の規模や性質は異なる。

        結晶の様子を目視。

B        降雪量

        上載積雪の量により斜度がゆるくても雪崩は発生。

        降雪中、降雪直後に雪崩の可能性。

        ルートを考える。

C        天候

        それぞれの雪質のできる天候がある。

        入山数日前からの天候を調べることで弱層の形成の予測ができる。

D        なすべきこと

        急斜面から落ちきるまで待つ。(タイミングの問題)

        ルートをどこにとるか。

        実際の雪崩がどうだったのかを見ておく。

        ここで雪崩れたらどうなるか、想像して見る

E        何をどうやって教えるか

        技術の講習だけでは山での安全は守れない。

        イマジネーションを働かせることの重要性。

        一番大事なのは技術なのか判断力なのか。それを教えるためには実際の山に即した形での講習が必要。

        現実に対応するためには、講習でも「場」を設定することが求められる。

  編集子のひとりごと

自分の勉強のためにと思って、浅学非才を承知で書きなぐってみた。雪崩の分類などについては網羅的に記述したわけではないので、氷雪崩やブロック雪崩などについては言及しなかった。また、これはあくまで僕自身の研修報告であるので、間違い等があってもセンターや主任講師には責任がありません。私の未熟によるものです。(大西 記)