不定期刊行             49  2003.4.15

中信高校山岳部かわらばん

編集責任者 大西 浩

                           木曽高等学校 定時制

ある遭難事故から思うこと

先日、ベテランと言われる人が山で亡くなりました。中野市在住のTさんです。彼女は「もんぺねえちゃん」の名前で精力的にいろいろな活動をしていましたから、ご存じの方もいるかもしれません。その彼女が亡くなったのは、彼女自身のおはこの十石山でした。今年の岳人の2月号を御覧になりましたか?そこには山スキーの特集が組まれており、「乗鞍・十石山」が紹介されています。その記事の中で「登って滑る料理人もんぺねえちゃん」と紹介されているのがTさんでした。その2月号が発売されてわずか二ヶ月後にその同じ場所で、事故に遭うなどと誰が予想していたでしょうか。まさにここは彼女のホームゲレンデだったのです。しかし、事故は起こってしまったのです。それほど詳細なことを承知している訳ではないので、ここではこれ以上は申し述べませんが、このようなことが起こりうるのも山です。

事故は絶対に起こしてはなりません。しかし、そのための備えを万全にするのも常識なのです。それが保険でしょう。それでは、自分だけ保険に加入していれば安全なのでしょうか?確かに何もなければ、問題はありません。しかし、万が一事故を起こし、自分以外のメンバーの何人かが保険に入っていなかったらどういうことになるか?皆さんはご存じでしょうか?たとえば三人のメンバーが遭難し、うち二人が保険未加入だったとします。そして三人が同時に救助され、その遭難救助費用が600万かかったとして、その場合、保険金はいくら下りるでしょうか?この場合は200万しか下りません。これは、決して起こりえないことではありません。現に数年前に長野県山岳協会の会員が富士山で起こしてしまった事故の際、これが大きな問題となりました。だから、パーティを組む相手が保険に入っているかどうかが、実は万が一の場合は非常に重要なのです。

私の所属する信高山岳会では、今年の総会で遭難対策費を設けることを新たに決定しました。昨年も問題提起をしましたが、高校生も含め、保険加入の問題、それに加えセルフレスキューの問題、これらは重要な問題だと思いますが・・・。日山協の高校山岳部向けの保険、今年ももし入るところがあれば紹介します。

山岳部顧問山スキー技術交流会 IN 御嶽山

前号で御岳スキーツアーのお誘いをした。また大さんと二人かな?と思っていたところ、思わぬ反響があり、参加者は7名。メンバーは言いだしっぺの二人に加え、浜(下諏訪向陽)大西(塩尻志学館)竹内(諏訪実)久根(風越)沼田(開成中)。期せずして、県内山岳部顧問山スキー技術交流会と相成った。

11日の金曜日、参加する面々は、三々五々木曽高校同窓会会館に集合し、明日の好天を祈って前祝い。開けて土曜日、天気予報では、午前中は雨が残るものの、午後は回復とのことだったし、朝方はそれほどの強い降りでもなかった上に、雲もだいぶ薄かったので、下りに大いに期待して出発したのだった。今回のコースは三岳村のロープウェイスキー場から黒沢登山口を経て、頂上に至り、3000mからの大滑降をと目論んだのだった。8時半に一番のリフトが動きだすのに間に合うよう、7時に木曽高校を出発し、当日参加の久根さんと途中で合流した。雨降りだというのに、駐車場には結構車が止まっていた(ヒトノコトハイエナイ・・・)。ロープウェイ(ゴンドラ)は片道900円で、鹿の瀬から7合目にあたる標高2100mの飯森までつないでいる。9時ちょっと過ぎ、ゴンドラ終点から尾根に取りつき、シール登高を開始した。樹林帯の中を赤布を目印に進んでいく。気温はそれほど低くないが、何せ湿度は100%。風を受けるだけでぐしょぐしょに濡れてしまう。今から10年前のアリューシャン、レチェシノイ峰に登った時の天候が、気温と言い、湿度と言い、ちょうどこんな感じだったなあとふと思い出す。あの時も全身濡れねずみの登山だった。足下の雪も非常に水分が多く、重い。

およそ1時間、森林限界の上に出た。するとそれと時を同じくするかのように、猛烈に風が吹き始め、雨も尋常ではなくなってきた。左手の沢を挟んで小屋が見えた。8合目の金剛堂である。気温も低下してきたので、恐らく寒冷前線の通過だろうと判断し、小屋まで行って、その脇で天候の回復を待つことにした。時刻は10時15分。前日の天気予報と僕の天候の読みとでは、1時間も待てば前線が通過して、天候は急速に回復する・・・はずであった。

 小屋の脇のやや風の弱い場所にツェルトを二つ出して、7人で肩を寄せ合って、ガスコンロで暖をとる。1時間後、風はますます強まり、雨はあられまじりのみぞれへと変化した。これが通過してしまえば・・・そう思いながら、さらに30分、そしてもう30分。結局待機を決めてから2時間半が経過し、時刻は12時45分となり、ついにコンロの燃料も底をついた。しかし風向きも変わらず、横なぐりにふきつけるみぞれは、一向に衰えを見せなかった。この時点で撤退を決断。残念だが仕方ない。この天気の中、これ以上上に行くのは遭難しに行くようなものだ。

 しかし、これでまた次来るときの口実ができた。下りは重い雪に苦戦しスキーが走らず苦労した。ねぇ、プラブーツのHさん・・・。山を下ってから開田のやまゆり荘に向かい、雨を見ながら温泉に浸かって冷えきった体を温めた。極楽、極楽。ついに天候は一日回復しなかった。リベンジするぞーーーーーっと。

山岳総合センターの高校登山研修会

例年行われている山岳総合センターの高校登山研修会が今年は5月16日(金)から18日(日)にかけて行われます。ここ数年参加校が固定傾向にあり、少数になってきています。昨年も声をかけましたが、ぜひ今から生徒に声をかけて参加してください。顧問自身の勉強にもなりますし、大会などとはまたひと味違う生徒間の交流も有意義です。昨年も木曽高校では、入部ほやほやの1年生女子2人を参加させましたが、彼女たちはこの講習会で山の楽しさを知ったといっています。3年間部活動を続けていく中で、やはり基本を教えてもらえるこのような場は貴重だと思います。

期日が例年より一週間遅くなっていますが、この方が却って出やすいのではと思います。針ノ木大雪渓にかつてのように県下高校生の声を響き渡らせたいものです・・・。

編集子のひとりごと

木曽高同窓会館で、また窮屈なツェルトで、肩寄せ合って次なる計画を練る。もう一度高校生を海外へ・・・。人が集まればいろんな夢が語られる。(大西 記)