不定期刊行             82号  2004.1.30

中信高校山岳部かわらばん

   編集責任者 大西 浩

                      木曽高等学校定時制

「高校生に夢を 初登頂 セリッククラムムスターグ」 上梓のご挨拶

このことについては、28日付け信毎の記事で紹介していただきました。多くの方に応援して頂いて、「セリッククラムムスターグ(カシタシ主峰)」に登頂してから早いもので2年半が経過してしまいました。たいへん長らくお待たせしましたが、このほどようやく報告書をまとめることができました。2001年夏登頂を果たし、帰国してすぐにとりかかった報告書作成作業でしたが、登頂の安堵感から延び延びになってしまいました。その間ずっと頭の片隅にあった報告書を出さなくては・・・という呪縛にも似た気持ちからようやく解放された気分です。

報告書はB5版68ページという薄っぺらい物ですが、2000年の本隊の報告書「夢 はばたけ 未踏峰カシタシめざして」(2001年1月刊行)に瞳をいれるものになったと自負しています。たった4人という少人数の遠征隊が、あの立派な山に登って帰ってくることが出来たのは、多くの方々のお力添えのたまものだと思っております。この場を借りて改めて感謝申し上げます。

報告書は、下岡さんに大変ご苦労をいただき、登山隊の思いをふんだんに取り込んだ読み物に仕上げたつもりです。登山活動はもちろんですが、それにとどまらず、随所に折り込んだコラム記事も気楽にお読みいただき、登山隊の素顔やそれをとりまくウイグルの人々との交流や文化を感じ取って頂ければと思っています。そして高校生など次代を担う若者たちに夢を語る手がかりとしていただければと思います。崑崙という地域は、登山の世界では今まで置き去りにされてきたところですが、それだけに今なお未知の部分が残る素晴らしいところです。今後も魅力的なオリジナリティあふれる登山が企画されることと思います。報告書中の崑崙山脈およびカシタシ山群の解説、概念図や3年間のマネージメントの総括はこの地域を知り、登山を構築する上での貴重な資料となりうると思っています。

「高校生に夢を」を掲げた私たちの夢には終わりはありません。今後も信高山岳会へのご支援を賜りますことをお願い申し上げ、報告書刊行のご挨拶といたします。

この報告書は、新聞報道もされたように、我々のテーマである「高校生に夢を」を伝えるため全県の高校にお配りするつもりです。

この報告書をご希望の方はご一報下さい。郵送料込み1500円でお分けします。

高校生に夢を 初登頂 セリッククラムムスターグ」 出版記念

祝賀会のお知らせ

上の記事に関連して、信高山岳会では報告書の完成をみなさんにご披露し、これまでお世話になった方と改めてこの遠征をふりかえり、次への夢を広げるステップとなる祝宴を計画致しました。みんなで夢を語りませんか?どなた様も気楽にご参加下さい。

日:2月20日(金)午後7時開宴予定

所:穂高町 穂高温泉郷「常念坊」(旧リゾート穂高)

費:1万円(宿泊、料理、酒等オール込み、元気回復券も使えます)

容: 報告書の披露のほか、成功までの足跡をおったビデオを上映いたします。このビデオは以前作成したものとは異なり、2000年隊からの映像に、2001年隊の秘蔵映像を交えて、下岡氏が新たに編集したものです。これら報告書やビデオを肴にセリッククラムムスターグから、次なる新たな夢へつながるような楽しい会にしたいと考えています。

申込み:出来るだけ早く大西まで連絡して下さい。

センター講師講習会 その2 柳澤昭夫講師の話から

 初日、搬送の実技講習のあとは、センターに戻って柳澤講師の「講義」を受けた。その内容はごくかいつまんで整理すると、科学・技術の進歩、情報の大量化などの中で、原点に戻って科学技術の蓄積によらない「経験」を見直してみようというものであった。

「弱層などということを科学的に解明していなかった1930年代の厳冬期に、小谷部全助らによって鹿島槍北壁や荒沢奥壁が登られているが、その事実をどう考えるか?」というのが柳澤氏による問題提起であった。僕自身それらに登ったことはないから論調する立場にはないが、地図を見た上での一般論で言えば、件の壁にとりつくには雪崩の危険のある沢を越えていかねばならぬ。「あんな時期に雪崩の巣を超えて、入っていくことは?」と首をかしげたくなるような場所だ。しかし、現実問題としては、そこではこういった登攀が現に行われていたのだ。そこにはいっていくことが、許される条件とはいかなるものなのか?そしてそういう条件があるのか?またいかなる状況をもって彼らは自らにゴーサインを出したのか?さらに、彼らはいかにしてそういう知恵を身につけたのか?・・・。

現在のように、これだけ情報があふれてくると、知らず知らずのうちに、我々はその中から、都合のいい情報だけを取り出して安心してしまっているということはないだろうか。柳澤氏は、そこにこそ危険がありはしないだろうかというのである。科学の蓄積として、弱層を知ることは重要だが、それに終始すべきではない。今の世の中は、科学的に整理されない部分の蓄積がなくなってきている。しかし山登りというのは、もとより曖昧、あやふやな世界の中で経験に基づいて判断を迫られる場面が非常に多く、先輩の話などから学ぶ部分も多かった。そう考えたとき、クラブ(社会人の山岳会のこと)の中で伝承されてきたり、集積されてきた経験、先輩の知恵というものをもう一度見直す必要性がありはしないだろうか・・・というものだった。

といって、弱層や地形判断、雪質など科学的に解明されてきている様々な条件を知ることの重要性を否定しているわけではなく、これら科学技術が雪崩を予測する上で大きな役割を果たすのは言わずもがなである。問題はそれだけに頼ってしまうことである。

編集子のひとりごと

形の上では81号は29日、この82号は30日の発行ですが、お察しの通り実際は続けて書きました。お暇な時にお読み下さい・・・ってもう読んだあとか!?(大西 記)