不定期刊行             83号  2004.2.8

中信高校山岳部かわらばん

   編集責任者 大西 浩

                      木曽高等学校定時制

センター講師講習会 その3 雪質観察とビーコン捜索

 随分間をおいてしまったが、センター講習会報告その3を・・・。講習会2日目は、最初は雪質の観察から始まった。昨夜来の雪は上がり、天気は上々。駐車場から丸山の東麓を回りこんで、大谷原に出、大冷沢の橋のたもとに出ると、鹿島槍の稜線とその東斜面が太陽の光を受けて白く輝いている。そこでまずは鹿島槍を眺めながら、講師の柳澤さんから、「この状況ならば、つっこむかどうか」という判断を求められた。昨日の講義からの延長である。つまり、山へ入って、弱層とかなんとかいう以前に山を見て、それをよく観察してみようというわけだ。結局こういうことの積み重ねこそが経験であり、知恵であるということなのだ。東尾根の上部斜面にはかなり大きな亀裂の入っているのも望まれた。斜度と降雪量(上載積雪)のバランスが何かの拍子に崩れれば、弱層面から雪崩れるわけだが、なるほど斜面を見ていると、デブリのあとやらクレバス、雪崩れたあとなど、斜面によっては様々で、普段は見逃しているような情報がたくさんあるのに気づかされた。普段の自分がいかに山をみていないかということですね・・・。

前夜は大町でも降雪があったが、山ではかなりの量が降ったと思われた。結局今日のこの状況では、とりあえずは「待ち」であろうというのが一致した見解であった。それではいつまで待てばいいのか?風、日射、地形などにより状況は刻々と変わる。一日待てばいいのか、2日待てばいいのか、はたまた数時間待てばいいのか?その辺もまた経験が大きいのだが、それを補完的に証明するのが弱層テストということになるのだろう。というわけで、次は前日の講習場所まで移動して、弱層テストを行なった。ハンドテストをしてみると、雪面からほぼ60から70センチメートルくらいの深さの所に弱層が存在していた。その面をルーペで見ると、角柱状の結晶がごろごろと表面に転がっている感じだった。恐らく霜ざらめ層であろうと思われる。私にはこの辺の判断はまだできない。講師の話や決定版雪崩学の記述からの推測である。

雪質の観察をしたあとは、ビーコンを使っての捜索訓練を行なった。講習場所から300メートルほど登ったところから雪崩が発生し、5人が流され、残った8人で探し出し掘り出すという想定で行なった。ビーコンでの捜索については昨年のかわらばん42号、43号にも載せた(中信高校山岳部年報にも再録)のでそちらを参照してほしいが、今回は今滝リーダーのもと、非常に緊迫感のある訓練ができたと思っている。よく言われることばに「訓練の時は本番のつもりで、本番(あってはならないが)の時は訓練のつもりで」というものがあるが、捜索の前に今滝さんが「これは訓練ではない。生徒が巻き込まれた、仲間が巻き込まれたのを必死で探す状況なんだ。」と、あえて言ってくれた。そのおかげで、私はかなり自分を追い込んで訓練できたのではと思う。実際訓練ではあるが、一時的に頭の中は真っ白になりパニックになっていたことをここで白状する。実際目の前で仲間が流されれば、15分の中で方針を立て、探し掘り起こすのは至難のわざかもしれない。二次雪崩の恐れだってある。そんな状況ではパニックにもなるだろう。でも、仲間が雪の中にいるのだ。そういう状況に追い込んでの訓練になった。結果は5人全部掘り起こすのにかかった時間は30分かかってしまった。掘り起こすのに意外と手間取ったのだ。

 ビーコンの性能について、一言。我が信高山岳会では2年かけて、最新のデジタルビーコンであるマムートバリフォックスを6台導入した。今回は初めてこれを使ってみたが、優れものである。複数のビーコンの電波を感知でき、30センチメートルまで表示することが可能である。今までのアナログビーコンの直角法などは必要がない。信高山岳会では、来る2月14、15日に焼岳で例会を行なうことになっているが、そこでは今回の講習会の伝達講習もしようと思っている。もし、会員以外でこのかわらばんをお読みの方で、興味があって参加できるという人がいれば、いかがでしょう。一緒に講習しませんか?ビーコンはこちらで用意します。(但し、必ず保険に加入してください。)

 ちょっと話が横にそれたが、今までのアナログビーコンからすれば、デジタルビーコンは現場への到達速度は格段に速い。問題は、そのあとの掘り起こしである。今回はザックを掘り起こしたが、もし人間を掘り起こすとなると、埋まっている深さにもよるが、デブリなどの堅くしまった雪をかなり広い範囲で掘るというのは大変な重労働だ。仲間を助けるために下へ下へ、ここ掘れとばかりに雪を掘りあげてもなかなかうまくいかない。ゾンデで特定したピンポイントの回りを相当広く、そしてブロックで切り出すこと。この二つのいわば「急がば回れ」をすることが早く掘り出すための秘訣だろう。

「美ヶ原十年日記」 を紹介します。

「美ヶ原の自然と風土を考える会」が創立十周年を迎えたのを記念して、11月に標記の記念誌を発刊した。もっと早くに紹介しようと思っていながら、機会がなく今頃になってしまった。A4版108ページのこの冊子は「10年間の本会の歩みを振り返ると同時に、セミナーの内容をまとめることで、美ヶ原について多方面から学ぶことのできる資料になったのではないかと自負しています」(刊行の挨拶文より)この会は、この10年間、手弁当で美ヶ原を歩き、調査し、自然観察をし、という活動を通して、地道にそのあるべき姿を考え、訴えてきた団体である。松本市の最高峰美ヶ原は、1971年、当時の大石武一初代環境庁長官が「美ヶ原台上に車道はなじまない」の名裁定を下した場所。いわば日本の環境問題のスタート地点といってもいい場所。それが・・・。

僕は、この会のダメ会員の一人なのだが、ぜひ多くの人にこの記念誌を読んで頂きたいと思い、罪滅ぼしのつもりで、紹介した。記念誌は、この会の事務局長として長く関わってきた大町北高校の下岡先生の編集によるものである。ここを愛し、ここの真の姿を知っている人たちの訴えには打たれるものがある。実費600円(送料別)で分けてもらえます。希望者は取り次ぎます。大西の所までどうぞ。

編集子のひとりごと

関西学院大学のパーティの大量遭難が起こった。どんな状況かわからないので、何もいえないが、判断に誤りはなかったのか?安易に救助要請しているのではないか?などやや気になる部分がある。先月、田中知事は長野県警のヘリ有料化をしたい考えを明らかにした。昨今の遭難救助については、登山者のモラルが問題になっているのは事実だ。山で我々は何をどう判断するか、いつも問いかけねばならない。現在進行形のニュースなので不謹慎なことはいえないが、一刻も早く無事で下山してほしい。(大西 記)