不定期刊行             94号  2004.5.24

中信高校山岳部かわらばん

   編集責任者 大西 浩

                      木曽高等学校定時制

新緑の開田村

20日(木)は木曽高校定時制の開田村でのアウトドアクラブの活動日。今回は新人歓迎散策と大焼き肉大会である。9:00木曽福島駅発。前号で「一体何人の生徒が来るだろう。予定では10人来るはずなんだけど。」と書いたが、結局7人(男子6、女子1)の生徒が参加した。引率の3人とあわせ総勢10人である。予定では西野地区の冷川沿いのカラ松林を縫う林道とそば畑の間を抜ける約8キロの高原散策コースを、のんびりたどるはずだった。しかし、台風接近に伴う天候の悪化も予想されたので、コースを大幅に短縮して開田高原キャンプ場から歩き始め、「尾ノ島の滝」を見学するだけにした。ここは御岳の修験者たちが修行をしたと伝えられている滝で、その名の通りの冷たい水が豪快な水しぶきをあげながら冷川に2段の滝をかけている。このところの雨天続きで水量も多く、迫力も満点だった。雨はまだそれほど激しくなかったので、ゆっくり見学をした。その後は、駒背グラウンドに移動して、炭火を囲んでの焼き肉大会。野菜切りに炭おこし、それぞれに自分の持ち場を見つけて、張り切る生徒たち。炭の具合と火加減もほどよく、適度に時間をかけてじっくり焼き肉を楽しんだ。

たらふく食べて、飲んで(お茶を!)腹がふくれたところで山菜採りを始める。この辺り一帯は、今がわらびの最盛期。30分ほど歩き回っただけでビニール袋一杯の収穫だ。こごみも少々ゲット。腹ごなしに水芭蕉の群生地を見て回るが、葉が大きくなったお化け水芭蕉は、やや見頃を過ぎていた。それでもところどころに見られる真綿色の苞は何とも可憐で美しかった。回りの山々は、新緑が雨に濡れ鮮やかさを一層際だたせている。この散策を終える頃から、心配していた雨が激しくなってきた。最後は御岳明神温泉「やまゆり荘」へ移動して入浴。鉄分を含む薄い茶褐色のお湯につかって身体の芯から温まった。生徒は5人が入浴。裸のつきあいのできる関係って素晴らしい。こうしてすべての行動が終了したのは、午後4時45分。一同、6時5分から始まる1時間目に間に合うよう、学校へ移動した。いつも思うが、一日の活動を終えてからの授業は・・・大変だ。これを毎日続けている生徒たちには本当に頭が下がる思いである。

山岳センター「高校登山研修会」 その1 今滝主任講師の講義

21日から23日までの3日間、山岳総合センターの「高校登山研修会」が開催された。参加は4校(大町、大町北、池田工業、美須々ヶ丘)15名である。生徒のうち3年生は1人だけ、あとは入部ほやほやで全く山ははじめてというに等しい一年生が約半数だった。今回は主任講師が白馬高校の今滝氏、その他の講師はセンターのスタッフ陣+不肖私であった。この研修会でどんなことが行われているのか?まずは初日に「残雪期登山の魅力と危険」というテーマで行われた主任講師の講義の内容を紹介しよう。

講義は、参加者に、残雪期登山の楽しさと危険を問いかけ、挙げてもらうところから始まった。「楽しさ」について参加者の中から上がってきたのは、雪の季節のおもしろさ、雪景色が美しい、雪が堅いから歩きやすく、ルート取りがしやすい、水が得やすい、どこでも泊れ、どこでも行ける、冬山に比較して装備が軽くてすみ、危険も少なそうだ、スキーが楽しめる、下りが楽だ、葉が少なく見通しがよい、雪崩を予想しやすい、山菜がとれるというようなもの。一方「危険」として挙げられたのは、ガスや吹雪の時の道迷い、時に気温が下がったことによる凍傷、落石、雪崩、濡れによる凍傷や低体温症、滑落、冬と夏が共存、足元が崩れる、クレバス、スノーブリッジ、雪庇、やけど、風、熊、油断、気温上昇や降雨による融雪などであった。

確かに残雪期というのは、山が本当に美しい時期であり、それでいて冬のような厳しさはない。しかし、油断禁物、意外な落とし穴もある。その点で、最初の動機付けの意見交換の中で、生徒や顧問の先生方から上がってきたこれらの「楽しさ」やそれと裏腹な「危険」はどれも的を射た答えであった。それにそって「登山の危険にどう対処するか」という話が具体的に進められた。

「登山」において重要なのは、先を読んで危険を認知し、瞬時の判断をして、行動に移すことである。そのためには、危険予測の能力と危険を回避する能力を身につけなければならない。そしてこれらの能力は、自然の観察をして山を読んだり、経験を重ねたり、先人に学んだりすることで向上し、技術の習得をし、その登山にあった装備をもつことで一層高められていく。当然ながら体力(バランスや柔軟性も含めた総合力としての)はそのベースになる。また、集中力を持って山を見たり、危険な状況になったときに適切に動けたり、極限状況下での行動力の源だったりする精神力というものも、山では危険回避の大きな要素である。人間は極限下では間違いなくパニックに陥るが、それを如何に小さくするか、言い換えれば収束時間を出来うる限り短くし、コントロールすることこそ重要である。

最後に今滝さん自身の学生時代の後輩を失った6月初旬の北燕岳の事故例を挙げられ、正しいものは何か、自分で考え、総合的に判断する能力こそ登山では最も重要な能力である。と講義を閉じられた。具体例も多く交えられた大変示唆的かつ有意義な講義であった。(紙幅の関係上舌足らずで、今滝さんの講義の極一部しか伝えられていないことをご容赦ください。)

編集子のひとりごと

センター研修会でのちょっと嬉しかった話を一つ。僕の班は、一年生が5名。2日目は針ノ木雪渓を峠まで詰めたのだが、その途上のマヤクボ沢の手前で小休止したときのこと。一人の生徒が、5mほど上部にあるビニール袋に気が付いた。彼がそれに近寄ると、一体誰が捨てたものだろうか、中には使い終わったEPIのガスボンベが一本入っていた。どうするのかなと見ていると、そのビニール袋ごとつかんだ彼はこういった。「このまま持っていけば、ザックの中が濡れちゃうな」と。するとすかさず同じ学校のもう一人の生徒が、ザックの中からさっとビニール製の買い物袋を出したのだ。最初の生徒はそれを受け取ると、ゴミをその買い物袋に入れ、何もなかったかのように自分のザックにおさめたのである。その間わずか数十秒。僕はただ見ているだけだった。彼が当たり前の行為としてなんの衒いもなくとったこの行為が僕にはなんとも新鮮だった。

彼は、何の気なしに極めて自然なこととして、純粋な気持ちからしたに違いない。こんな青年がいることが嬉しかった。自然保護なんて声高に叫ばずとも、こういう気持ちを持っている生徒が、山岳部にはいってこれから山を志そうとしていると知って心が明るくなった。(大西 記)