不定期刊行             98号  2004.6.14

中信高校山岳部かわらばん

  編集責任者 大西 浩

                      木曽高等学校定時制

あわや道迷い。持っててよかった。地図は大事だよ。

県大会は好天に恵まれてトラブルもなく終わった(ように見える)。が、実は・・・。私と福島さんに指定された審査地点は、大日岩の登り返しの地点。コース全体の3分の2ほどの位置だから、通常なら逆周りで行って待ち伏せするというのが常だが、天気もよさそうだったので、我々2人は、生徒に先行して、同じコースを審査地点に向かった。金峰山小屋経由で、金峰山に登り五丈岩までやってきて、何の気なしに緑のロープ沿いに行くと、なぜか道は稜線を外れ下っていく。「こんなはずはない。おかしい。地図を出そう。」見ると自分たちは明らかにルートを外れて山梨側に下ろうとしていた。頂上から五丈岩へ下ってきて、信州側を巻くのが正解なのだが、コルの鳥居とロープに誘われてなんとなく進んだ結果のミスだった。しかし、ここで僕は思った。間違えるのは僕らだけではないはず。頭をよぎったのは前号でもとりあげた道迷い事件。

そこで本部に緊急無線連絡すると、本部ではとりたてて策を講じていないので、頂上の高橋さんに頂上から見ていてもらうという案を提案してきた。僕は直感的にこれではだめだと思った。その理由の第1は、頂上の高橋さんの任務がルートと正反対の鉄山方面へ行ってしまうのを防ぐという点と無線中継であること。第2は、たまたまその段階では天気がよかったが、万が一ガスでも出てくれば、直線距離で100m以上離れている高橋さんのところからは対応できないこと。そう考えた僕はすぐに、金峰山小屋にいる二人(杉山・菊地)の先生のうちの一人を配置できないかと無線を通じて提案した。結果的にはそれを受け入れてもらって菊地さんが五丈岩の分岐に立ってくれることになった。下ってからの彼の話によれば、案の定、5チームが山梨側へ下っていきそうになり、うち2チームは彼の制止を振り切ろうとしたとのことだった。僕らは地図と地形を見て判断することができたが、もし策を講じなかったら、全部とは言わないまでも、これら何チームかは地図も見ずにとんでもないほうに下っていたのではなかったか?

さらに、もう一つ、恥をさらそう。私と福島さんは、すんでのところで審査をし損ねるところであった。前日の打ち合せで大日岩への登り返しがあることは了承しており、そここそが我々の審査地点だった。この道は競技地図にはGPSで落とした道がきちんとはいっていたが、2万5千分の一地図とは全く道が違っていて、登り口はわからない。そして我々は競技地図は持っていなかった。しかし、その道がまさかあのような道だとは・・・。僕らは五丈岩から稜線を下り、大日岩手前のベンチから件の岩を巻くために下った。しばらく下るとそこには根津さんがいた。恐らく先生は僕らが仕事を終えて下ってきたのだと解釈されたのだろうと思う。だから先生には落ち度はない。しかし一方、僕らも彼のいるところが登り返しの地点だなどとは微塵も思わなかった。なぜなら、それまでの道が一級国道だとすれば、その道はまさに林道と言う例えがあてはまる踏み跡程度の道であった。だから、僕ら二人は大日岩へ登るためだけの道だと解釈したのだった。ここに大いなる誤解があった。僕ら二人はそのまま更に下った。右に登るはずの登山道を探し、「どうして根津先生はあんなところにいたの?」なんていいながら。ひとしきり下ると左手に小屋が見えた。「えっ、どうしてこんなところに小屋があるの?」「いつこんなところに小屋ができたんだ?」それにしても変だ。というわけで、この日二度目の「こんなはずはない。おかしい。地図を出そう。」ということになった。僕らはなんと大日小屋までくだってしまったのだ。そこで初めて根津先生がいたあの場所こそ登り返しの地点だと気づいた次第。そのあとの登り返しは、すでにベンチの近くまで下ってきていた生徒に先を越されないように、久しぶりに福島さんと二人で国体登り。すんでのところで審査に間に合った。ということで結論。どんなときでも地図は大事です。

県大会、審査の舞台裏

県大会の審査の際には侃々諤々。だいたい山岳というものが競技に馴染まない。その馴染まないものを無理に競技化すればあちこちにひずみが出てくる。その上、毎年フィールドも自然条件も変わってくるから、どうしてもその場その場での判断が出てくるのもやむを得ない。しかし、そんな中、できるだけ客観的に判断できるようにと事前、事後に審査員会が開かれ審査基準を決める。昨年のかわら版(第55号2003・6・5発行)にも書いたが、その大前提になるのが「安全登山」だ。ここで審査される内容は、「無雪期の高校登山のスタンダード」でなければならない。そして、その中身はすべてオープンになっていなければならない。しかし、毎年想定外のことがいくつも出てくる。

たとえば、装備審査でナイフをと提示させたら、工作用カッターナイフが出てきた。これを是とするか否か?また、計画書の概念図について、今回は周回コースであるが、概念図のルートの記載で、順路は書くべきか否か?カロリーメイトは非常食としてふさわしいか?などなど。これらは結局前例をもとに判断し、それがない場合は新たな前例を作っていくことで対応するしかない。今年の審査員会では、例年以上にその点が議論された。近日中に審査委員長の重田先生から送られる講評には、過去の事例がかなり明確に示されるはずである。ただし、これも一つのたたき台と考えて、来年の大会に向けては全国高体連の基準とも整合性をもたせ「秋の反省専門委員会」でさらにきちんとしたものにしてもらい、全校に周知してほしい。これは僕の要望だ。

繰り返すが大事なことは「安全登山の普及」である。だから、審査は審査として採点をしたうえで、減点になった部分は説明をし、よりましを目指してきちんと指導することこそ意味がある。それが普及ということの意味だ。これも一例をあげる。生活審査の中で、幕営に関して、採点項目の中で「完成」という概念は、「そこですぐにテント生活ができる状態」のことをいう。僕が審査したある高校のテントはきれいに張り終わり、中を覗くと、テント内には4個のザックが奥の方にきれいに並べられていた。客観的な部分での減点はない。しかし、ここで僕は次のように言うのだ。「これは減点対象ではないけれど、この状態よりいい状態があるんじゃないかな・・・」という前置きをして生徒に考えさせる。「ザックが4隅にあれば万が一テントが風に飛ばされそうな時でも、いいのではないか?また4人の生活空間の確保という点でもベターじゃない?」と。

編集子のひとりごと

天候に恵まれた県大会だった。県大会が終わるのを待っていたかのように梅雨にはいった。大会は表向きは大きなトラブルはなかったけれど、内実は・・・恥を承知で道迷いについて書かせていただいた。教訓として次に活かして欲しい。(大西 記)