不定期刊行             99号  2004.6.21

中信高校山岳部かわらばん

  編集責任者 大西 浩

                      木曽高等学校定時制

2004長野県クライミングツアー開始、高校生も参加

長野県クライミングツアー第1戦兼国体県予選会が、先週13日の日曜日に佐久市の佐久アートウォールで行われた。この大会に6校(岡工、美須々、白馬、大町北、池工、上田西)から14名の高校生が出場者した。カテゴリーは3つに分けられ、いずれも男女年齢を問わない中で行われたが、フラッシング(5.10≦◎≦5.11・リード方式)で行われたM(ムーブメント)Uの部には3人の高校生が、またビギナー対象に同じくフラッシング(◎<5.10 トップロープ方式)で行われたM(ムーブメント)Vには、11人の高校生がそれぞれ挑戦した。大会結果は、MUの部では大人や高校生の参加者のいる中、優勝は小学生、3位が中学生、4位も小学生だった。ジュニア層の伸びは著しい。

長野県山岳協会では、今年から国体委員会、スポーツクライミング委員会、ジュニア委員会の3つの委員会がリンクしながら、楽しくクライミングを普及して行くべく、今回の大会を皮切りに年間4回の長野県クライミングツアーを開催予定。また、センターともタイアップしながら、講習会を開いたり、近くにクライミングジムのない木曽地区や諏訪地区などでボルダーの開拓などをしたりして、クライミングを身近に感じてもらえる環境づくりをしていこうと画策している。

顧問の先生、クライミングの通知が届いたら、是非目を通して生徒の諸君に紹介して下さい。先日行われた県大会の3日目のボルダリングの体験会も、参加した生徒の諸君には好評で随分もりあがった。どんなこともやってみなければわからない。

高所における血栓症

日本山岳協会の第23回海外登山遭難対策研究会が19日から2日間松本市青年の家で行われた。今回はトピックとして、高所における血栓症が取り上げられた。血栓の前段階の血液ドロドロの状態は、発汗や水分不足でなりやすい夏山などでも起こりうる。だから、ここで紹介するのもあながち無意味ではないと考え、取り上げてみる。

高所に順応すると、赤血球が増加し、血液の粘性が増すので、血栓症が起こりやすくなる。その上、下痢や食欲低下、水分補給不足などの理由で脱水があると赤血球の濃度はますます濃くなる。高所に長期滞在するということはそのような状態に陥りやすい環境におかれるということである。したがって高所で血栓症が起りやすいというのは理屈として理解ができることだが、今回の研究会では、昨年秋中国側から「紅旗峰(7011m)」に挑戦し、その登山中に実際に血栓症になり緊急下山した長野市のN氏と長年登山医学に関わってきた2人のドクターによる報告、それを受けてのパネルディスカッションが行われた。この場では、N氏自身の体験談を掲載してみることで高所における血栓症について考えてみたい。これは感覚的ではあるが、医学的な説明よりも、実体験ということで具体性がある。この上に立って、もっと知りたいという方には当日パネラーとして参加した塩田純一ドクターの「中高年登山のための生理学」(本の泉社、1999年2月刊)をお薦めする。ちなみにN氏は、ヒマラヤ経験も豊富で8000mの経験もある。

さて、N氏の話によると、彼の血栓症の発生と手術までの経過は以下のようである。登山隊は、ラサ入りが10月15日。21日にBC(5150m)入りをした。しかし、トラブルでC1(5450m)に5日間足止めになった。C2(5700m)あたりから、時々左後頭部に鈍痛があり、右脚に重い感じがあった。高所順応のため、C1滞在中から毎日ダイヤモックスを半錠ずつ、午前中に服用した。ABC(5800m)入りして4日目の11月4日、右脚の痺れが強まり、ホッカイロで温めた。11月7日、朝から右脚は感覚麻痺し、足裏も全く感覚がなくなり、鈍痛のため歩行が困難になったため、一刻の猶予もないことを察知し、その日のうちに単独下山を決意。シェルパ2人に支えられながら2日かけてBCまで下り、その後車で2日移動し、10日ラサに到着。ラサでは2日間にわたり国立ラサ病院、人民軍病院、体育大学などで治療、マッサージをうけるが原因と効果が出ず、成都への移動準備にかかった。13日成都へ移動し、四川大学病院で検査、翌14日超音波検査の結果、「右脚大腿部と膝の2ヶ所で動脈が閉塞しており、非常に危険な状態」であると診察された。医師にはその場で即手術するようにと宣告されたが、手術するならばどうしても日本でと懇願した。このときは「10日もったものならば後2日はもつだろう。だから一刻も早く日本へ返してくれ。」(本人の言)という感覚で、なんとしても日本へ帰りたかった。無理を言って11月16日に帰国。飛行機では3席確保し、横になり痛みに耐えた。成田空港からは車椅子で運ばれ病院へ直行。17日から精密検査を受け、12月11日7時間に及ぶ手術が行われた。と言うものだった。

彼自身は体験の中での考察として、この血栓の原因を次のように分析している。@冷え(C1で、氷が解けてテント内に浸水、右半身びしょぬれの状態で一夜を過ごした)A順応鈍化(年齢による順応鈍化か、今までにない顔のむくみや頭痛が感じられた)B利尿剤(左後頭部に鈍痛があり、ダイヤモックスを飲み続けたが、そのあとの水分補給がたりなかった)C動脈硬化(生活習慣の動脈硬化症が若干あったのかもしれない)以上が、体験に基づく話の概要だ。(筆者注:Aについては因果関係がよくわからない。)

僕らが山へ行くにあたっては何しろ予防が肝心である。そこで上記体験にドクターの話を加えて僕なりにまとめてみると、血栓症の予防のためには、@十分な水分補給、A高所滞在時間を短くする、B喫煙は血管を収縮させるので喫煙しない、C脱水を促進するのでアルコールを控える、D利尿剤の使用は、脱水を促進し血液の粘性を亢進させるので慎重にする、E冷やさない、などが肝要であろうとの結論になる。

最後にダイヤモックスについて一言。順応を促進する目的で、利尿作用のあるこの薬を持参する海外登山隊は多い。カシタシでも、代謝をよくすることで順応が早めたいとして、利尿作用のあるこのダイヤモックスを飲んでいた隊員もいた。僕は実際には使わなかった(使ったことがない)が、順応が進んだ段階ではこうした利尿剤の作用により脱水が助長されることはよいことではない。言われてみれば理屈だ。ただし半錠程度では血栓との因果関係については不明とのこと。高所にはじめて行って頭痛が出たときに、ダイヤモックスを飲むというのは、一般的であるように思うが、「ドクターのついていない隊では慎重に。」とも言われた。このあたりも話としては大変に参考になった。

編集子のひとりごと

北信越大会が終わった。新聞報道では県内校の上位入賞はなかったようだ。しかし会場は八海山、場所やよし。面白い話、生徒の感想などあったらお寄せください。(大西 記)