不定期刊行            110号    2004.9.6

中信高校山岳部かわらばん

   編集責任者 大西 浩

                      木曽高等学校定時制

長山協レスキュー講習会支点について考えてみる

山で事故が起きたら、どう対応するか。自然がフィールドの登山という活動においては、常に万が一を考えて行動しなければならない。そしてその第1原則はいうまでもなく「自己責任」であろう。会に所属していればまずはセルフレスキューであり、高校の山岳部の引率においても、それは同様だろう。8月28日、29日と北アルプス唐沢岳幕岩下部の沢を会場に、長山協遭難対策委員会と山岳総合センターの共催のレスキュー講習会兼講師講習会が開催された。高校関係者では、長山協遭対委員長もしている白馬の今滝さん、大町の松田さん、武蔵工業大学第二高校の中島さん、それに僕の四人が参加した。(そのほかには社会人山岳会のリーダー等総勢16名が参加。)

講師は長山協会長の柳澤昭夫氏。この講習会の中で、一番勉強になったのは、支点のとりかたであった。ロープを使う場面において、支点が確実なものであるということは、当たり前のことであるが、普段は感覚的に済ませてしまっている部分がありはしないだろうか?たとえば、懸垂下降の支点として、どこをどんな風に使うのがその場で最も間違いない方法なのか?索道を張るとしてボルトで支点をとるときには一体何本を打ち込めばいいのか?三本?四本?五本?そして、その理由(根拠)は?あるいは、ある支点に対して、バックアップを取るときの支点の強度はどうあらねばならないか?こういったことに明確に答えられるだろうか?講習会は、これらのことを、一つ一つディスカッションをしながら、検討し、現実に即してよりよい方向を探っていくというスタイルで進められた。

今回の講習で一番力点がおかれたところは、「徹底的に防御の力を高めるということ」(柳澤氏のレジメによる)であった。この講習会の内容に関する山岳協会遭難対策委員会の一定の見解は、長山協の機関誌やまなみなどを通じて近く出されるはずであるので、そういったことの多くは、そちらに譲り、ここで述べているのは僕自身の印象であることを断っておきたい。その上で、これについて問題点等があったら遠慮なく指摘して欲しいし、よりよい方法等もご教示いただきたい。

初日の訓練は背負い懸垂の実践であった。懸垂とは支点に全荷重をかけるわけだから支点の重要性はいうまでもない。それでは一体何キロまで耐えうる支点ならよいのか、また自分がとった支点が一体何キロまで耐えうるかはどう判断すればよいのか?降りる(力のかかる)方向はどこか?すべての支点の中に一ヶ所でも弱点があれば、そこがアキレス腱になるなどなど。そんなことを考えながら、基本に戻って、支点をとってみた。

夜はビバーク訓練の実施であったが、自分の寝場所を確保し、夕食を済ませた後は、たき火を囲みながらのミーティングと相成った。そこでは、昼間おこなった懸垂下降について、議論になった。懸垂下降そのものは、生徒にも教える技術である。高校の教員も多かったからか、その場では高校生に懸垂下降を指導する際の問題点が議論に上った。酒のせいで少しおぼろげではあるが、次のようなことが議論されたように記憶している。

A:(特に腕力がない女子などの場合)万が一手を離してしまったときのことを考えて、プルージックをとらせているが、実際にやらせる中で、プルージックがしまってしまい、にっちもさっちも行かなくなった経験がある。果たしてどんなものか?

B:それでは、最初は上から確保する方法をとればいい。

C:下から引いてやってもとめられる。

D:普段高校生など初心者は道具など持っていないから、肩絡みを教えることこそ重要だという考えはどうか?

E:肩絡みは痛いし、万が一足が外れると危険だ。

F:エイト環などの器具は安全性を高めるために開発されたものといえはしないか。それを使うことによって確実性が増すことが確実であるなるならば、未熟な高校生にこそ積極的に使わせるべきで、肩絡みこそ上級技術である。・・・

 こんな調子の議論が交されたあと、次に懸垂の際、二本のロープの結び方をどうするかについて議論は深められていく。最近は結び目が立って、抜くときに引っ掛からないからという理由で、8の字が主流になっているという中、末端を折り返したことで、抜けてしまったという事故が頻発しているということがあちこち(日山協HP、岳人9月号などを参照)で報告されていることが紹介される。それでは、どんな結び方がいいのか?ある人は昔からダブルフィッシャーマンを使っているといい、また別の人は本結びで末端処理をしさえすれば、解きやすい上に抜けることはないという。それでは8の字はどうなのか?もし8の字で結ぶ場合は、結び方の特性上、力のかかる(引っ張られる)方向を考えれば、末端を30センチ以上は出しておく必要がある。その上で、絶対に末端を目に折り返すことはしてはいけないだろうという結論が出た。

懸垂に関してはもう一つ。ロープを投げるときに末端をどうするかということも議論の別れるところだ。両端を束ねて結ぶ。片方ずつ結ぶ。全く処理しない。考えられる答えは3つ。あなたならどうしますか?僕は、今までいわゆるすっぽ抜けを防ぐために両端を結んでいたが、これについては一長一端があると知った。

二日目は、索道を張っての搬送訓練だった。索道は紙幅の関係もあるので、ここではこのとき柳澤さんから指導してもらった確実な支点の取り方を一つだけ、紹介しておこう。この時は直径2mほどの自然石2つで支点をとったのだが、その取り方は次の通りである。二つの石は上下に2mほど離れている。この二つの石をロープを使ってたすき掛けに巻き付け、最低でも3周は巻き上げる。そして、たすきの交点に当たる部分を支点として使うのである。その部分に力がかかるとどうなるかというと、上下の石は互いに引っ張り合う方向に力がかかることになり、より強固になるわけである。通常支点と言ったとき、確実に動かない自然石があればそれにロープを結んでそれで終わりというのが今までの私の常識であった。もちろんいつも潤沢にロープがあるわけではないし、索道というある意味特殊な状況下での実践ではあるわけだが、支点に関する私自身の認識に新たな視点が加わる有意義な体験だった。

編集子のひとりごと

 9月4日、5日山岳総合センターのクライミング講習会が開催された。参加は22人。参加校は白馬、大町、大町北、松本筑摩、松本美須々ヶ丘、塩尻志学館、木曽の7校。なんと中信地区ばかり。木曽高校からは山岳部関係の生徒顧問は参加できなかったのだが、体育の若手の先生が参加。大変有意義だったとの感想をもらった。(大西 記)