不定期刊行             124号  2005.1.2

中信高校山岳部かわらばん

     編集責任者 大西 浩

             木曽高等学校定時制 

センター講師講習会のお誘い

1月29日、30日の両日、山岳総合センターの講師講習会が開かれる。この講習会は、長山協の遭難対策委員会と指導委員会も共催して行われることになっている。僕はこの講習会にはここ数年継続的に出ているのだが(かわらばんbS2、43、81、82、83参照)、非常に有意義なものだと思っている。昨年も高校の関係者が多く出席されたが、今年も是非一人でも多くの方に積極的に参加してほしいと思っている。継続的なテーマは「雪崩」である。今年のねらいは「講師としてまたは山岳関係のリーダーとして、雪質観察や埋没者の捜索救出訓練・搬送訓練をどう展開したらよいか検討することを通して、講師としての資質を高める」とある。

センターの講師や指導員資格を持っている方には要項が届いていると思うが、それ以外の方には届いていないと思うので、ここで紹介したい。参加されたい方は、下記山岳総合センターに問い合わせの上、1月17日までに申し込まれたい。

長野県山岳総合センター 〒398−0002 長野県大町市大字大町8056−1

【電話】(0261)22−2773 【FAX】(0261)22−5444

【E−mail】sance@nagano−c.ed.jp

書評2題「ユージ★ザ・クライマー」「大いなる山大いなる谷」

最近読んだ2冊の本を紹介します。僕はこの二人には及ぶべくもないが、大きな勇気をもらうことと参考にすることはできる。

その1「ユージ★ザ・クライマー」羽根田治著(山と渓谷社刊)

今でこそクライマー「平山ユージ」の名前を知らない岳人はいないだろう。またクライミングのことを知らない一般の人にも彼のことは知られ始めている。その彼が、昨年ついに世界で初めて5.14b(8c)をオンサイトしたという記事が岳人誌(2004年12月号)にも載っていた。まさに世界のユージである。35歳にして、今なお進化し続ける最強のクライマーである。そのユージの今までの足跡をたどったのがこの書である。高校(都立航空高専)時代に所属したワンゲル部の活動には飽きたらずに始めたクライミング。高校一年の時からは、ワンゲル部の活動に参加しなくなり、ユージの生活はすべてがクライミング中心に回りはじめた。来る日も来る日もトレーニングをしながら、その傍らコツコツとバイトをして目標額の60万円を蓄えた。目標とはクライミングの聖地ヨセミテへ行くことである。高校3年の5月、「勉強は年をとってからでもできるけどクライミングは今じゃなきゃっていうのがあった」「とにかく僕は行きたかったし、行きたいときに行かないと一生行けなくなるような気がして」と休学をして、ヨセミテへと向かう。パートナーは19歳の山野井泰史である。・・・このあとは、面白くてとにかく一気に読破してしまった。

僕は、かつて彼と一回話をしたことがある。2003年1月、ところは東京、日山協の新年会の会場だった。ビールを美味そうに飲む彼に、僕はぶしつけにも、長野県(クライミング環境の整っていない地方)のクライミングの底辺強化について、持論をぶつけ意見を求めたのだが、その時の彼は初対面の僕にも、丁寧に応対してくれた。そのとき受けた印象は、気むずかしいクライマーというのとは無縁で驕りのないさわやかな感じであった。この本を読んで、彼の活動からますます目が離せなくなった。

その2「大いなる山 大いなる谷」志水哲也著(白山書房刊)

こちらは、「志水哲也」というオールラウンドな山登りの若き日の記録である。最近は黒部をベースにした写真家としても活躍しており、写真集なども出しているので、知っている方もいるだろう。彼は高校時代に単独で南アルプスの全山縦走、北アルプスの全山縦走というとてつもないことに成功した。そしてその後、まだ20歳そこそこの若さで宇奈月に居を移して、わずか2シーズンという凝縮された時間の中で黒部川の流域の全支流を踏破するという試みに挑戦、これも見事にやってのけるのだ。驚くのはまだ早い。彼はこのあと谷川岳一の倉沢衝立岩、ドリュ南西岩稜の大岩壁をたった一人で攀じ、さらには冬季の南アルプス、知床半島、春季の日高山脈をいずれも単独で全山縦走をしているのだ。

この書にはこれらの記録が掲載されている。冒頭には全行程41泊42日というその北アルプスの全山縦走が載っているが、そこには「一七歳の夏、僕は一つの夢に向かって歩き出した。常識のレールから脱し、友人たちとは別の道を歩いていく。皆が大学進学や就職の準備で忙しい高校三年の夏休み、僕は一人、北アルプス全山縦走へ向かった。」と書かれている。また、24歳の彼は次のように述べている。「僕は縦走でも沢登りでも岩登りでも、冒険がしたかった。(中略)未知な部分がある山行は想像と発見の面白みがある。実力ぎりぎりの山行は、登れるか登れないかわからないから心ときめく。」

山登りはなぜ山を目指すのか。僕はかねて山登りは「探検、冒険、夢(ロマン)」という三要素が不可欠だと思っている。ここにはそのエッセンスが詰まっている。

二冊の本を紹介したが、共通するのは、二人とも高校生の時代から夢を追い、それを実現させていることだ。何より10代の若さでこういうことを考えることのできることに僕は感服する。ユージ自身も「僕が学校をやめたころは先のことなんてまったくわからなかった」と言っている。しかし同時に「一年先はわからないという思いで一年一年を真剣勝負してきた」とも言っているのだ。また志水は「大人になるにつれ、犠牲にできないしがらみも多くなってきたが、山に対する夢や目標はいつまでも高く持ち続けたい。」と言う。ユージは現在35歳、そして志水は39歳。この先どんなクライミングや登山を展開し、僕らにどんな形で勇気を与えてくれるのか、非常に興味深い。

編集子のひとりごと

このたび長野県山岳協会とネパール山岳協会との間で友好協定が締結される運びとなり、1月10日にカトマンズで調印式が行われることになった。立場上渉外担当として先方と話を詰めてきたこともあり、私自身もネパールへ行くことになった。お金のない山岳協会なので、自腹を切っていくというのがちょっと切ないが、せっかく行くのだから、調印式に先立ってミニトレッキングをしてこようと思っている。日程的にはかなり厳しいが、間近にヒマラヤの山々を眺めてこられる。報告をお楽しみに。(大西 記)