不定期刊行            136号  2005.5.3

中信高校山岳部かわらばん

     編集責任者 大西 浩

             木曽高等学校定時制 

山岳総合センターに安全登山の体験できる人工壁がお目見え

大町の山岳総合センターの体験室に擬岩、擬木で作られた人工壁ができあがったが、このほどこの壁を寄付した「信濃登高会わたすげ」のOB会からセンターへの贈呈式が行われ、正式に使用が可能になった。壁は高さ2.5m、幅が3m。その隣には以前からあった人工壁をさらに拡充した幅7mのボルダー壁が併設されている。壁を設計、施工したのは、「わたすげ」OB会のメンバーで、長山協副会長兼スポーツクライミング委員長の森山議雄さん。「わたすげ」のメンバーの一人が90年、黒部で転落してなくなるという事故があったが、このメンバーの両親が救助にあたった同会へのお礼として150万を寄付。「わたすげ」は2年半前に解散したが、OB会はこのお金を安全対策に役立ててもらおうと検討の結果、山岳総合センターへの寄付を決めたそうだ。

実際に工事中に森山さんやセンターの主事の中嶋さんから話を聞く機会があったが、この壁は、実際にボルトやハーケンがどの程度利いているのか、アンカーはどう取ればいいのかなどを目で見て、確かめることができるようなものになっている。登る技術ばかりでなく、防御の技術が学べる貴重な壁である。ぜひ一人でも多くの人に実際に見て触ってもらい、安全登山の普及に役立ててほしいものだ。

土、日、祝日を除いて、午前8時から5時まで無料で使用できる。雨天時も使用できるので、近隣の高校にとっては格好のトレーニング場所にもなりそうだ。今度のセンターの講習会の時には、みんなで触れてみることができそうだ。

連休のバリエーション二題・・・雪稜と山スキー

この連休、小生は前半の3日間を猿倉定着で、雪稜登攀と山スキーという欲張った山行を満喫した。29日、早朝猿倉に車を回し、栂池に移動。ところが強風のため、ゴンドラは運転見合わせ。小蓮華から金山沢の大滑降をという目論見は初っ端から出鼻をくじかれた。1時までゴンドラの動くのを待ったが、強風は収まらず、時折雨も降るあいにくの天気に、あきらめて猿倉まで戻った。それでも、天候が回復したらあわよくば長走沢でスキーでもと考えたが、雨はますます強まったので、仕方なくテントで一休み。今回のメンバーは松田大さんと私、それに岡山の高体連専門委員長の田中初四郎さん。テントに入ると、田中氏肝いりの「でべら」(カレイの干物)と銘酒「嘉美心」で、宴会が始まってしまった。この「でべら」、さすが海辺の肴である。歯ごたえもあり、塩味も適度で旨い。こうなれば、雨の停滞もまたよしである。

その1 双子尾根から杓子岳登攀

翌30日は、朝から一点の雲もない好天気。アイゼンにピッケル、ザックには登攀道具を詰め込んで、双子尾根から杓子岳を目指した。雪の状態もよかったので、小日向のコルへ登るルートは取らず、コルより杓子寄りの長次郎雪渓の手前の小尾根を詰めて稜線へ出た。樺平からは、先行パーティのラッセル泥棒をしながら、結局猿倉から約6時間半で頂上まで抜けた。白馬三山は何度も縦走しているが、縦走路から離れている杓子の頂上に登ったのはいつ以来だろう。そう思ってみると杓子の頂上に登ったのははるか以前のことだ。下から見ると立派な山容で自己主張をしている杓子の頂上はやはり、広い。岡山から遠来の田中さんも満足気。頂上で十分に休んだ後、白馬岳とのコルへ降りていくと、二人組みがスキーを背負って登ってきた。すれ違いざま、ふっと顔を上げてみると、筑摩高校の藤岡さんである。ご夫婦で朝大雪渓を登り、杓子沢を滑るために登ってきたという。下で再会しましょうと、我々は大雪渓を下った。二号雪渓のあたりにはかなり大きなデブリもあったが、馬尻まで下ると、一昨年登った主稜へのトレースが続いていた。

我々が降りてからしばらくすると、杓子沢から長走沢を下ってきた藤岡さんがテントに顔を出してくれた。

その2 金山沢スキー滑降

1日は、一昨日のリベンジを果たそうと、小蓮華山頂から金山沢のスキー大滑降を再び計画した。実はこのコース、昨年5月5日、深志の山岳部が当時の顧問太谷さんの引率の下、生徒3、OB1の5人でスキー山行を行っている。中信高体連年報第28号に詳細な記録はないが、事実の記載だけはある。蛇足ながら、このOBというのが、当時浪人中のわが息子であった。息子には我が山スキー一式を貸してやった。そんなこともあり、ぜひとも行ってみたいコースでもあった。

8時のゴンドラに間に合えばいいとゆっくりと朝食を摂り、田中さんの車で栂池に向かった。2週間前には下まで滑って来られたのがまるで信じられないほど、雪の融け方は進んでいる。しかし、栂の森から上は山スキーヤーの世界。ゴンドラと始発のロープウェイを乗り継いで栂池自然園に到着したのは、8時35分。早速シールをつけて自然園を横切り、小蓮華山を目指した。天気もいいので、ロープウェイが到着するたびに、吐き出された一団の人間が次から次へと登ってくる。船越沢を横切り、小蓮華の大斜面をトラバースに入ると、これが長いこと長いこと。行けども行けども斜面は続き、稜線にはなかなか届かない。苦労する我々を尻目に、前日に自然園に泊まったパーティがきれいなシュプールを描きながら、気持ちよさそうにはるか下へ消えていく。登ること3時間、小蓮華山の頂上に到着。頂上の直下では雷鳥も出迎えてくれた。ビールで乾杯して登頂を祝っていると、後続のパーティが2組、白馬へと縦走して行った。12:35、靴を締めて、下降にかかった。登りに苦労した斜面は広大で、どこでも滑れる。金山沢の入り口を目指して下る。前日大量に舞い落ちた黄砂で雪の斜面が赤茶けて見えるほどであるため、ときおりスキーがひっかかりつんのめりそうになるが、斜度があるのでそれに助けられて一気に滑り降りた。金山沢に入ると一部狭くなっているところもあったが、問題なく猿倉まで下れた。田中さんも松田さんも思い思いのシュプールを描きながら優雅に下っていく。2769mの小蓮華山頂から1230mの猿倉まで標高差1500m以上をわずか50分で滑り降りた。登りの苦労もあっという間に消化。まさにこれぞ山スキーという醍醐味を満喫した一日だった。小生は遅ればせながら息子に追いついた・・・。これらの詳細は後日信高山岳会のHPにアップされるはず。乞うご期待。

編集子のひとりごと

小生の連休は終わった。明日からは氏神様の例大祭で、氏子総代の私は神事の一部始終に出なくてはならない。諸氏の山行に事故の無いように神前で祈ってます。(大西 記)