不定期刊行            145号  2005.724

中信高校山岳部かわらばん

     編集責任者 大西 浩

             木曽高等学校定時制

泳ぐ、泳ぐ、また泳ぐ・・・柿其渓谷の沢登り(泳ぎ?)(7/24)

前号のかわらばんで、「柿其渓谷」のことを書いたら、大西英樹氏から早速次のようなメールが届いた。「先週、鈴が沢に行って来ました。泳がなくても良いところを、無理矢理泳いで中央突破で沢を登りました。なかなか面白かったです。で、今週末の日曜日にかわらばんにあった柿其川の沢登りにいこうか、と計画しています。ネットで調べてみるとかなり泳ぎがいがありそうです。またまた急ですが、良かったらいかがですか。」

これは面白そうだと、一口乗った。参加者は大西氏のほか、伊那市の堀米さん。集合時刻にちょっと遅れて塩尻志学館高校に6時35分ころに到着すると、すでに2人は準備万端。堀米さんは初対面ではあったが、話をしてみるとなんと奥様は以前国体山岳競技に出ていたということで、旧来の知己であった。そんなわけで、一気にテンションは上がった。堀米さんの車で柿其を目指す。しかし天気はもう一つで気温も上がらない。

8時35分、大西氏がネットで手に入れた「遡行記録」にざっと目を通し、地図を頭にいれ「恋路橋」から入渓。他の2名はネオプレーンのパンツとスパッツにライフジャケットで完全防備をしているが、急なお誘いを受けた小生は陸上競技用のスパッツにTシャツ、ライフジャケットもないという心細い出で立ちである。水温は先週よりはいくらか暖かい感じはするが、この先泳ぎがメインということに加えて、二人の沢登りのスペシャリストとの同行で少々不安な出発である。黒淵、牛ヶ滝までは遊歩道が整備されており、先週も生徒と辿った道。遊歩道を外れた牛ヶ滝の高巻きからいよいよ沢登りに入る。所々赤テープもあるのでたまには入る人もいるのだろう。踏み跡ともいえないようなトレースを下るといきなりの淵である。最初からの泳ぎには躊躇したが、「えーいままよ!」とエメラルドグリーンの水の中に飛び込んだ。しばらく渓を右に左に進みながら行くと、「く」の字型に曲がった流れの速い淵が現れた。ライフジャケットのない私はかなり真剣に泳いで右岸にたどり着いた。

渓は次第にゴルジュ状になってきた。当然のことながら水量も多くなる。10:00「ねじだる」と覚しき地点に到着。ここが本日の第一の核心部。右からかなりの水量がウォータースライダーよろしく滑め滝状に落ちて深い瀞を作っている。右側に比べれば水量は少ないとはいえ、真ん中の大岩を挟んで左側の大岩からも相当量の水がまっすぐ落ちている。どちらも突破は困難に思えた。さあどうする?大西氏が真っ先に果敢に左側から滝の真下に入り込む。中は岩小屋状になっており、何とか3人が入り込めた。ここから上の段までは約3メートル。つるつるの岩にスタンスがあるようには見えない。「ここを乗り越すには肩車で強引に行くしかない」という大西氏の一言で最も体重の軽い小生が最初に挑戦。大西氏と堀米氏の肩に立ち上がり、何とか乗り越えようとするが、身体は冷え切って動かない上に、上から落ちてくる水の勢いの強さに落下。あえなく敗退。続いて挑戦した大西氏もかなり粘ったが、あとわずかのところでルートを開けない。最後に堀米氏がやや身体を左に振りながら、アンダーホールドをうまく使いながら何とか上の段に抜けた。小生もザイルのお世話になりながら、何とか乗り越えた。完全にフリーの世界だった。

続いて現れた二つめの核心は、かなり狭いゴルジュの急な流れの淵とその先にある2mの滝越え。ライフジャケットのない小生は、先に進んだ二人にザイルでひっぱってもらって、まずは右岸のテラスに何とか立つことができた。しかし、滝を抜けるにはどうどうと音を立てて落ち込む滝壺を、右岸から左岸に渡る以外にない。ここでザイルをつけた大西氏がドボンと飛び込み活路を開いた。意外に浅くて助かったが、ここは大西氏の泳ぎと度胸で何とか突破した。

左手遙か上に林道を見ながら進んでいくと、12:00、突然幅の広い堂々たる滝が現れた。落差20m。これが「霧ヶ滝」だ。上から下まで同じ幅でまっすぐ落ちてくる姿は見応えがある。しかしとても登れない。「遡行記録」では「右岸のガリー状を20mほど登ると、滝見の展望台があり、そこから林道に上がった」とあったので、それと覚しきところを高巻こうと試みたが、最初に登ったガリーは脆い泥壁でどうにもならない。もう少し沢を下ったところから再度とりつく。小生がトップで登ったが、あと5〜6mがどうしても登れない。ここでまたも堀米氏のヘルプを仰いだ。本日三つめの核心がなんと林道への高巻きとは・・・。今回は2人のスペシャリストに助けて貰いっぱなしである。

再び沢へ降りて昼飯にした。ここまで想像以上の難度である。「遡行記録」では「この先は『箱淵』『溺石淵』など今まで以上に泳ぎの連続」との記述があり、気を許せない。実際もその通りであったのだが・・・。とはいうものの前半に比べれば気温も上がってきて、泳ぎそのものはそれほど苦にならなくなってきた。前方で深いゴルジュの上に橋がかかっている。その下は淵になっていてなんともすばらしいロケーションの場所が現れた。ここを悠然と泳いで通過する。この先上部で古い木橋が二回ほど沢を渡っていて何とも絵になる箇所を泳ぎながら進んで行く。昼食後は泳ぎの部分が五分の一ぐらいはあったのではないだろうか。

さらに進んで左岸をへつりながら行くと、沢が大きく右に曲がっているところでものすごい勢いで水がアーチ状に跳ね上がっている。上から落ちてきた水が岩にあたり反対側に跳ね返って、落ち口に水を跳ね上げているのであった。大西氏は非常に滑りやすそうな岩をフリーで高巻いて滝上を飛び越え、堀米氏は下部でアーチの上を飛び越えた。幅は2mぐらいか。さて、私は・・・?前二者を見る限り、飛び越えられるだろうとは思ったが、万が一飛び損ねたら、この水量では滝壺に巻き込まれて容易に浮かんでは来られまいと躊躇した。命あっての物種、ロープの助けを借り無事通過。あとで「あそこをよく高巻きましたね」という問いに大西氏は「どうせ落ちてもスライダーで滝壺におちるだけだし」と一言。やはりライフジャケットの差と自分を慰めた。滝を越えて一休みして「遡行記録」を改めて読み返し、ここが実は終了点の「雷の滝」であると知った。終了時刻は13:40。帰りは沢と並行している林道から沢をのぞき込んで復習しながらブラブラ下った。同行のお二人さんありがとうございました。

編集子のひとりごと

夏場限定!のお楽しみの報告を通し、紙上で「涼」をお届けします。かなり手強い沢登りでしたがなんとか無事帰ってきました。それにしてもあれだけ集中して泳げる沢登りというのもなかなかないんじゃないだろうか。夏はやっぱり沢登り!!(大西 記)