不定期刊行            146号  2005.8.11

中信高校山岳部かわらばん

     編集責任者 大西 浩

             木曽高等学校定時制

千葉のインターハイにいってきました

最高地点の標高が344.2m、史上最も低い山域千葉県房総丘陵を舞台に行われたインターハイに総監督(D隊)として参加してきた。酷暑の中、長野県チームは男子大町が14位、女子の飯田風越が26位とそれぞれ頑張った。私にとっては4回目の参加となるインターハイは、昨年の秋、委員長の星野さんに冗談半分に「話のタネに行ってもいいよ」と軽い口約束をしたのが一人歩きをし、いつの間にか行くことになっていたというのが本当のところ。以下その「話のタネ」を報告します。

D隊シンポジウム・・・緊急事故対応と山岳部の活性化

ここでインターハイを知らない人のためのミニ講義。表題のD隊とは何か?他の競技と違って選手が山の中に入ってしまうと指示はおろか観戦もできないのが登山競技の総監督。指をくわえて下にいても仕方がないので、男子のA隊、女子のB隊、男子種目縦走のC隊に加えて総監督隊いわゆるD隊が組織され、登山活動を行うのだ。登山活動とはいえ、D隊は、毎日旅館泊の上、基本的にはサブ行動なので、泥酔隊などと陰口をたたかれもするのだが、各県の専門委員長と情報交換ができる貴重な場でもある。

D隊では、毎年テーマを決めて意見交換(通称D隊シンポジウム)も行われる。今年のシンポジウムは「登山大会における緊急時対応と女子山岳部の活性化について」というテーマに基づいて「@登山大会での緊急事故対応アンケート集計結果から」「A女子山岳部強豪校からの報告より」の二つの報告がなされ、それをふまえて議論がされた。@のアンケートは各県の専門委員長が回答しているものを中央総務がまとめたものだが、過去5年間大会中(国体含む)に、死亡事故1件を含む7件の緊急事故が報告されている。7件中熱中症が3件(内死亡1)、脱水症状が2名、テントで火傷と転倒骨折が各1名とのことだった。熱中症と脱水が多いのは、何より給水、それに緊張、疲労、開催時期などの要因が複合的に絡んで引き起こしている結果であろうことは容易に想像がつく。

長野県では僕が関わり始めてから、記憶する限り県大会での報告に値する大きな事故は3件である。1件は、1983年前常念の雪渓トラバースでの滑落死亡事故。2件目は豪雨の飯縄山で行われた1990年の北信越大会で、福井県の女子選手が瑪瑙山の山頂で突然倒れて意識がなくなった事故。この事例は1年生で初めての山行、前夜も長旅に加え慣れないテントでゆっくり眠れず、さらに雨中の行動で疲労が蓄積したことに水分摂取不足による脱水も重なり、意識不明になってしまったのだったと記憶している。このときは、雨を避けるためにテントを張って、その場でしばらく横にして様子を見たが、回復の気配が感じられなかったため、役員で背負いおろした。僕自身も背負ったが、足元がぬかるむ中、猿回しのお助けひもで制御しながら、かなりの苦労の末、戸隠牧場まで下ろした。救急車を手配し、その後、長野市内の病院に搬送し、点滴等の処置によりなんとか事なきを得た。背負っているときは、若干の反応こそあるもののぐったりしていて、非常に不安であったのを覚えている。もう一件は、1994年これも飯縄の大会だが、オブザーバーで参加していた女子の一人が霊仙寺から飯縄の登りの途上、頂上直下で真っ赤な顔をして動けなくなった。この日は非常に暑い日で、明らかに熱中症だと判断されたので、木陰に寝かせ楽な格好にし、タオルで扇いで風を送り、水分を少しずつ摂らせて休ませた。こちらも1年生であったが、初めての山行で脱水と疲労が重なったものと推定される。しばらくして落ち着いたので、自力下山をさせた。県大会ではこうした病気以外に、パーティ行動時の道迷いも今までに数件起こっているが、これは幸い大きな事故にはつながっていない。

話をシンポジウムに戻そう。長野県では今年星野さん、加藤さん等の努力で、養護教諭が初めて大会本部に待機していてくれる態勢となった。アンケートによれば、全国的には大会に医師を配置しているのが6県、看護師を配置しているのが9県、養護教諭の配置が14県という状況だそうだ。予算措置が難しい側面もあるが、これらについては先進県に見習いたいものである。長野県大会の要項には、県高体連の指導もあって今年から緊急時連絡網が整備され緊急時対応が明記されたが、全国的にはこれら事前取り決めをしている県は全体の約1/3の16県とのことだった。

保険加入について、長野県では従前から大会時には民間の旅行保険で対応しているが、これとは別に日常の部活動の中での保険のことが話題になった。かわらばんでもこのことについては、ずっと情報提供をし、訴えてきているわけだが、日山協の山岳共済への加入は県内では僕の把握する限り5校程度で、まだまだという状況だ。大会というのは主催者がいて、そこがある程度の責任をもって行うものであるが、普段の引率山行でこそ、何かことが起きたときに我々引率顧問の対応が問われることになる。その意味でお金だけで解決できない場面は十分に想像されるが、自然相手のリスクをもった活動を生徒とともにしているものの最低限のモラルとして、保険加入は常識ではないだろうか?日山協の山岳共済も絶対のものではないが、我々が使うことにより保障内容も充実するし、意見も取り入れてもらえる。現に今年からできた高校生向けの一般共済は、こうしてできてきたものだ。シンポジウムには日山協の田中文男会長も同席されていたが、「保険の整備が私の使命、ぜひ率直な声を聞かせてほしい」とおっしゃっていた。事故を起こさないことが第一であるが、他人に迷惑をかけないという意味でもぜひ加入を検討して欲しいものである。巷には民間の保険も立ち上がってきて山岳雑誌などでもPRしている。それらも含め今一度考えてみたい問題である。

テーマの二点目の女子部員確保問題は深刻だ。長野では今年の県大会には7チームがエントリー、久々に活況を呈した。僕が審査で参加した97年の京都大会の時はじめてB隊に参加できない県が出現し、話題になった。それが今年は7県にまで拡大してしまっている。それを受けての女子強豪校の顧問の先生の女子生徒獲得報告と討議。これらは参考になる部分は多かったが、やはりここから伺えるのは顧問の力量ということか?それではこの先暗い。女子ばかりでなく山岳部全体の活性化の道はあるのか?

編集子のひとりごと

せっかく房総の味を楽しみにしていったのに、大会期間中、宿舎では生ものは御法度だそうで、D隊の名に恥じず?×××は潤沢にあったものの、当て外れ。宿泊料金は11550円。嘘だろ?ってのが率直な印象。毎日宴会終了後に部屋で行われた近畿の皆さんの設定した2次会の方がいいものがあった。こちらは毎晩盛況。感謝。(大西 記)