不定期刊行            209号  2007.1.5

中信高校山岳部かわらばん     編集責任者 大西 浩

木曽高等学校定時制

雷鳥が語りかけるもの 中村浩志著(山と渓谷社刊)

北アルプスに登ると頻繁に見かける鳥、ライチョウ。夏などは雛をひきつれ、5、6羽で歩く親子連れを目にすることも多い。そんなライチョウについて書かれた本である。著者の中村さんは、信大の教授であるが、1993年、僕が「アリューシャン列島登山自然調査隊」に参加したときに、自然調査班の一員として一緒に登山活動をし、マクシン峰、アクタン峰には一緒に登った山仲間でもある。山登り以外にも、アクタン島では温泉を掘ってはいったり、鳥調査用の網を仕掛けて鮭を捕まえたりという、愉快な経験を共にした。そんな人間的な教授がライチョウについての文化論を出版されたので紹介したい。

ライチョウの研究は、元信大教授の故羽田健三氏が生涯をかけて取り組んだテーマだそうだが、その羽田研究室にいながら、中村さんは最初からライチョウに興味があったわけではなかったという。氏はもともと平地に住むカワラヒワやカッコウなどの鳥の生態の研究が専門であり、「ライチョウ」にも、「自然保護」にもそれほど興味がなかったのだそうだ。そんな彼だったが、アリューシャンで人から逃げるライチョウを目にしてから、ライチョウに関する考え方が少しずつ変わったのだという。そして、今は「ライチョウ会議」の議長もつとめておられる。

我々も知っていることだが、日本のライチョウは、人間を見ても偽傷行為をしたり、逃げたりすることはない。脅かしさえしなければ、相当近くに寄っても逃げてはいかない。しかし、世界的に見るとこれは極めて特殊な例であり、このことは「日本文化」と大きく関わっているというのである。そのことに初めて気づかされたのが、僕もご一緒させていただいたアリューシャンのライチョウを見たときのことだったというのだ。

日本のライチョウは、世界の最南端に分布し、本州中部の高山帯のみに生息しており、その生息数は20年ほど前の調査では3000羽にも満たない稀少動物である。そして分布の中心から外れた山岳から絶滅がもうすでに起きており、かつてはライチョウがいた中央アルプスや白山・八ヶ岳ではもうライチョウの姿を見ることはない。高山という特殊な環境だけに適応しているライチョウは、年平均気温が1度上昇するごとに、生息数が20年前の何パーセントまで減少するかが予想でき、地球温暖化の影響が懸念される。さらに、最近はニホンザルやニホンジカが高山に進出して高山植生を破壊し、一部の山岳ではライチョウの数が激減していること。こういったことが、ライチョウへの愛情溢れたことばで丹念に書き込まれている。

人を恐れないライチョウはまさに日本文化を象徴する存在とはどういうことか?まさにこの点こそがこの本の核心なので、それには敢えて触れずにおくが、標題の意味は、氷河期の生き残りとして営々とそのライフスタイルを守ってきた「ライチョウ」が我々に語りかけるものに耳を傾けることが、我々日本人の生き方を豊かにするということなのだろう。

今年夏には、中村さんが代表を務めているライチョウ会議の第8回大会が大町市で開催されることになっている。私も「長山協」という立場からこの大会に関わることになったが、アマチュアの山登りの立場で一緒にこの「ライチョウ」の語りかける声に耳を傾けてみたい。冬休みの研修中の一冊としていかがですか?

長野県山岳総合センター講師研修会のお誘い

例年行われている標記研修会が今年も1月27・28の両日、黒沢尾根(実技)と山岳総合センター(講義、講演、泊)で開催される。主催はセンターだが、長山協の遭難対策、指導の両委員会も共催し、「講師としてまたは山岳関係のリーダーとして、雪質観察や埋没者の捜索救出訓練・搬送訓練をどう展開したらよいか検討することを通して、講師としての資質を高める」というねらいで行われる。センターの中嶋主事や遭難対策委員長の高橋さんによれば、ここ数年実施できていない「搬送訓練」も取り入れたいとのことだ。今年も主任講師は、長山協会長で元文登研所長の柳澤さんである。

僕はこの研修会にはかれこれ10年近く毎年出ているが、いつも新たな発見があり、勉強になる。ただ人から教えられる研修会でなく、ともに知恵を寄せ合い山仲間が互いの経験交流をすることができるというのが、最大の魅力である。というと、少し尻込みする向きもあるかもしれないが、決して敷居は高くない。信州の山へ登る際には絶対避けて通ることのできない「雪」について、みんなで考えてみませんか?

申し込みは、所定の事項を記入して16日までにセンターへ電話、FAX、メールなど任意の方法で。詳しい要項等は、山岳総合センターまたは長野県山岳協会のHPをご覧下さい。

編集子のひとりごと

あけましておめでとうございます。今年もよろしくお願いいたします。

教育基本法の「改正」ショックからは、しばらく抜け出ることができず、力の出ない年明けでした。しかし、間違いなく僕らの前には未来を担う青年たちがいます。その子たちに責任ある未来を託すため、頑張らねばという思いで勇気を奮い立たせています。

手前味噌で恐縮ですが、元旦から信濃毎日新聞で、「生徒と先生、家族をつなぐ学びの糸」に目を凝らした特集「学びの糸――木曽高校定時制から」という7回シリーズの連載が始まっています。定時制には僕は「教育の原点がある」と思っていますが、みなさんはお読みになってどうお感じになったでしょうか?未履修、いじめ自殺などの問題が世の中を席巻した昨年でしたが、僕らは目の前の子どもたちから目をそらすことなく、本質を失わないようにしなければなりません。憲法に則って、主権者たる子どもたちに平和な世界を伝えて行く義務を粛々と果たしていくことが肝要なのでしょう。それぞれの場、それぞれの立場で今後もできることをしていきたいものです。

写真は昨年チベット訪問の際、5300mの高さで目にした「青いケシ(メコノプシス)」です。けなげに咲くこの花のように、したたかに、そしてさりげない美しさをもって生きていきたいものだと思います。今年もご愛読とご指導をお願いし、新年の挨拶といたします。(大西 記)