不定期刊行            227号  2007.8.22

中信高校山岳部かわらばん     編集責任者 大西 浩

木曽高等学校定時制

あなたは最近3泊以上のテント泊山行の経験がありますか

大町高校の小沼先生から夏合宿の報告をいただいた。3泊4日の裏銀座は、オーソドックスなコースでかつてはどこの学校の山岳部も数年に一度は取り入れていたコースである。生徒の諸君も日々大きくなる槍を見ながら縦走の醍醐味を味わったことだろう。以下引用する。

遅くなりましたが大町高校の夏合宿の報告です。計画通り6日〜9日に裏銀座を部員4名と顧問2名で縦走しました。雲は多かったものの行動中に雨には降られず、烏帽子、三俣、ババ平のキャンプ地と順調に進みました。初日の急登では1年生藤沢が断続的に足を攣り、荷を軽くするなどの対応をしましたが、2日目からは縦走に慣れて痙攣もなく胸をなでおろしました。重荷を負っての急登は彼には初めてだったので、本番前に縦走形式の月例山行をしておくべきだったと反省しました。ともあれ、北アの真っ只中の景観を堪能した生徒たちは満足気で、長期縦走の訓練にもなったいい合宿でした。ちなみに僕が高校1年次に初めて登った北アも同コースだったので感慨ひとしおでした。

さて、前々号で「顧問の力量低下」が深刻ではないかと書いた。今回の大町は3泊4日であるが、県内で他に3泊以上の合宿を組んでいるところはぜひ報告をしてほしい。中信高校山岳部年報をひもといてみると、かつての中信地区の各校の山岳部は、4泊5日でそれこそ縦横無尽に北アルプスにいろいろな線を引いてオリジナリティあふれるコースを競い合っていたものである。

どうしてこうなったのであろうか?僕はその一番大きな理由は顧問にあると思っている。そこで改めて県内の顧問の先生方に聞きたいのである。「あなたは今まで、生徒引率とは別にテント泊3泊以上の山行をしたことが何回ありますか?」と。おそらく県内の現役の顧問の先生でこれに対して複数回という回答ができる顧問は皆無とは言わないまでも数えるほどではないだろうか?僕は「2泊3日」というのは、本当の意味での縦走とは言えないのではないかという思いをもっている。僕は様々なスタイルの山との関わりの中でとりわけ縦走というスタイルが好きなのだが、実際2泊3日というのは、1日目は入山の日であり、2日目は実際にはもう翌日の下山が見えてくるのであり、3日目は下山で、どうも物足りない。下界から完全に離れるという脱日常が山の醍醐味でもあるのだが、2泊3日程度では「下界」を完全に意識の外に追い出すことは難しい。本当に山に抱かれた感じを持てるのは、最低でも3泊が必要で、明日もまだ帰れないというその「1日」が縦走の思いをより強くするのである。そしてその1日が有形無形に力量アップにもつながる。以下はかつて岳人誌に依頼されて(2005年8月号)書いた僕の縦走に対する考え方の一端である。

憧れの山を次から次へと結びながら登っていく「縦走」という登山形態は、山登りの原点である。山登りとは、人間の二本の足のみが頼りのなんともかよわい営みであるが、苦労の末に辿り着いた一つのピークに立って、来し方行く末をはるかに望み見る瞬間こそまさに山登りの原点たる「縦走」の醍醐味を実感できる瞬間といえよう。

山から山へと重畳と続く稜線上の一筋の道を見ると、どこまでも行ける愉しさに夢がふくらんでくる。また、辿ってきたはるかな縦走路に自分の足跡を見たとき、自然の大きさに立ち向かう我ら人間の小ささが実感され、その小ささが成し遂げたたゆみない営みが、小ささ故にこの上ない充実感となって湧いてくる。

しかし「縦走」とはまた、単なるピークハントではない。いくつもの山をつなぎ、二日、三日、四日と山の中に身を置くことにより、その山域全体の雰囲気や自然のもつ懐の深さなどをまるごと味わえるのも、「縦走」ならではの魅力である。自然が相手である以上、山は常に笑顔で迎えてくれるとは限らない。しかし、どんな天気でも、どんな悪条件でも、それを丸ごと受け止めることで、その山のまた違った魅力に触れることができる。雨もまたよし、風もまたよしである。その時の条件に応じその山全体を受け止め、自然にドップリ浸かれることは、縦走のもう一つの魅力なのである。たとえば、どんな道を辿ってもアプローチに二日はかかる「雲の平」に立って四囲を見渡せば、たとえそれがどんな悪天であれ、まさに山に抱かれ自然と一体になっているという感情が湧いてくるに違いない。

だから、縦走は少なくとも三泊以上した方がいい。経験的にいうと、縦走で一番きついのは二日目である。三日、四日と経過する中で、疲労はたまってくるはずだが、不思議なことに身体はむしろ楽になり、重い荷も苦にならなくなってくる。これは身体が慣れてくるということと同時に、山の持つ魅力も一役買っているのだと思う。・・・

以上はかつて書いた駄文だが、3泊以上の縦走は、まさに山の醍醐味を味わわせてくれるもの。4日、5日と山の中にいれば、アクシデントがおこることもある。時には濡れて重くなったテントを持って前進することも、またどこへも逃げ場のない中での沈殿も。そんなことへの対応も2泊3日ではあまり経験できない山のど真ん中であるが故の体験である。もう一度問おう。「顧問の皆さん、テント泊3泊以上の山行をしたことが何回ありますか?」と。

インターハイ県陵6位入賞

佐賀県で行なわれていたインターハイで松本県ヶ丘高校が6位に入賞した。長野県勢としては、2002年茨城大会での大町高校の5位以来5年ぶりの快挙である。暑い中での大会、選手監督の皆さんお疲れ様でした。そしておめでとうございます。初出場の女子塩尻志学館は、残念ながらアクシデントで結果が出せなかったとのことだが、この経験をバネに楽しい山登りをこれからも続けていってほしいと思う。みんな明るい生徒たちだから・・・。どちらも来月の新人戦で話を聞くのを楽しみにしています。

編集子のひとりごと

「ライチョウ会議」は刺激的だった。2日間で14本の講演を聴いた。文系人間の私には少しく学術的すぎてついていけないものもないではなかったが、しかし「ライチョウ」をキーワードに様々な角度から語られる現在の「高山環境」についての話題はどれも興味深いものであった。講師の中で、ライチョウ会議の議長を務めている中村浩志さん、熊やサルなど野生動物の研究者の泉山茂之さんは、ともに1993年のアリューシャン遠征のときの隊員でもあり、同じく隊員である宮本さんや浮須さんも含め夜の懇親会も盛り上がって、僕にとっては大いに意味のある二日間であった。(大西 記)