不定期刊行            238号  2007.11.19

中信高校山岳部かわらばん     編集責任者 大西 浩

木曽高等学校定時制

安全登山研究会研修会

10月27、28日の両日開催された中信安全登山研究会の研修会は、9名の参加で行なわれた。初日は台風接近の大雨の中、センターで救急法と担架搬送、固定ロープの張り方と通過を行なった。救急法は、センターの古幡さんにみっちり講習を受けた。しかーし、帰ってきてみるともう忘れている自分がいる。「じゃー意味ないじゃん」とも言われそうだが、さにあらず。前回のかわらばんで「雪上歩行」についても書いたが、どんなことも「一度でもやったことがあるかそうでないか」は大きい。今回は、骨折に対する処置と止血法を行なった。

前腕の骨折、下腿骨折、頭部出血の応急処置を行なった。骨折の場合の基本は、1)全身の状態の観察。2)少しでも骨折を疑わせる状況があれば、骨折の手当をする。3)生命の危険は少ないので、慌てず確実な処置を行なう。骨折の手当は、副子(骨折部の動揺を防ぐため、骨折箇所に当てる支持物)を使っての「固定」である。副子は骨折の上部の関節を含めることのできる十分な長さ、強さ、幅(一番細いところよりも太いものを用意)を持つものが望ましい。山では枝を重ねてテープで巻いたり、ペットボトルを切ったりして作れる。また、副子があたって痛いような場所にはタオルなどを入れたり、末梢の血行を妨げないようにしたりすることにも注意する。

   テキスト ボックス: 十分な長さの副子、三角巾を使っての下腿部の固定

 

 傷と止血については、1)開放性の傷は感染の危険が高いので、傷口にガーゼ(ない場合はタオルをコンロであぶって消毒)をあて、包帯をする。2)泥まみれの場合は、感染の危険が特に高いので、きれいな水で汚れを洗い落とし、イソジンで消毒。3)動脈を切った様な場合は、最低4分の圧迫が必要である。4)また出血でショックを受けないように励ますことも必要である。2年前の3月に栂池で山スキーをしているときに、Oさんが転倒、スキーが外れて額に当たり、額の動脈を切って血が噴き出すように出てとまらなかったことがあった。その時は、持っていた三角巾で縛り、テーピングテープでぐるぐる巻きにしたが、血は止まるどころからどくどくと噴き出した。幸い近くにいた旅館の主人のスノーモービルで運んでもらい、事なきを得たが、あの時は、頭からの出血でまず動転し、次いでそれが止らないことで心配になり、出血の箇所も髪の毛があることで見にくかったこともあって、非常に不安だった。今思えば、まず「4分止血する」という基本がなっていなかったわけだ。ただ三角巾を巻いても動脈をきっていれば、簡単には止血できないのである。

 初日はその後、冒頭に書いたとおり、固定ロープの通過法と担架搬送、背負い搬送を行なった。こちらは一昨年のかわらばんで紹介したので、今回は割愛。夕刻からは食糧計画の実際ということで、普段の山行の中での食糧計画を互いに検証し、実際に献立を立てての炊飯実習。夜のメニューは、豪華絢爛な「すき焼き」と「うどん」、朝食は「ラーメン」(検討した割には・・・?)と相成った。ただし、ラーメンは東京から参加された福田さんが夜のうちからダシをとった生ラーメンという本格的なもの。ちょっと普段の山行とはかけ離れた?かもしれないが、夜の懇親会も大いに盛り上がり、接近していた台風をも吹き飛ばし、翌日は、「雨引山」で実際に登山。途中にある熊の穴岩では、ロープを張っての通過方法の実際を体験。さらには、十分な器具がない状態での懸垂下降の実習。頂上では、松葉杖を作ってみたり、ザックを使っての担架、ロープを使っての担架作成をしたりなど、十分に内容のある研修ができた。ちなみに私はこの研修会については、当然学校出張で、研修費もきちんと出してもらって公的な立場で参加できた。

今回の参加者は、今滝(白馬)小林(白馬)、小沼(大町)、下岡(大町北)、浮須(池工)、松田(県ヶ丘)、竹内(筑摩)、福田(東京五商)、大西(木曽)でした。

   

テキスト ボックス: 左からロープワーク、ストックを使った松葉杖、ロープ担架、ザック担架編集子のひとりごと

前号で、「今日から山岳総合センターで中信安全登山研究会の研修会が行なわれる。」と書いてから、発行が滞っていた。その研修会の報告である。「読んで」「見て」いただければわかるように、楽しくかつ有意義な研修会だった。お互いに自分の持っているものを出し合いながら、研究を深められた。しかし、これらの技術が完璧に身に付いたものでないことは冒頭記した通りである。とはいえ、一度やったことがあれば役に立つことは必定。現に今年の一月のこと。センターの講師講習会の開催中に、研修に参加していた受講生の一人が腰を痛めて動けなくなった。このことは、すでにかわらばんでも紹介済みではあるが、処置としては担架搬送を行なった。しかし、実際にこのときに手を出して担架を作ったのは、こういった講習会や研修会の常連である大町山の会の榛葉伸男さんとセンターの中嶋岳志さん、それに不肖私の3名であった。僕もそうだったが、あとで聞けば、中嶋さんも実際の場面で担架を作ったのは初めての経験だったとのことだ。つまり、長年山をやっていても実際にそういう場面に遭遇することはめったにないのだ。(あそうそうあっては困るが)ということは実地で技術を得る類のものではない。だからこそ、こういう訓練や研修が必要なのである。(大西 記)