不定期刊行            249号  2008.2.20

中信高校山岳部かわらばん     編集責任者 大西 浩

木曽高等学校定時制

白夜の大岩壁に挑むーークライマー山野井夫妻(NHK取材班刊)

昨年11月18日放映のNHK衛生ハイビジョン特集「白夜の大岩壁に挑む〜クライマー山野井夫妻」、今年1月7日NHK総合で放映された「夫婦で挑んだ大岩壁」をご覧になった方も多いのではないかと思う。北極圏グリーンランド、標高差1300mのビッグウォール「オルカ」への挑戦。本書は、その一部始終を担当取材したディレクターによる番組取材記だ。

2002年のギャチュンカンで、山野井泰史が登頂と引き換えに失ったものは大きかった。残った3本の指では力が入らない。60キロあった山野井の握力は、17キロにまで落ち、現在でも30キロまでしか回復していないという。一方、妙子は両手足の18本の指を失った。しかし、二人はそれでもなお山に向かう希望を失わなかった。番組では、その登攀もさることながら、それ以上に二人の強い絆が心を打った。奥多摩での生活の再開。ギャチュンカンで一度失ったモチベーションを再び燃え上がらせていく執念。トレーニング。そして、ビッグウォール「オルカ」の発見。不自由な手で妙子が扱えるように改良を加えたカム。

「一番頑張ったのは妙子じゃないかな。(中略)うん、そうだ一番活躍したのは妙子だ。」登り終えて語る山野井の言葉には、なんのてらいもない。

筆者は、「二人の生き方が決して万人に共通するものではないかもしれない。」という。しかし、同時に「『価値観は一緒。山にはお金をかけるけど、ほかのことはどうでもいいのです。』と言い切ったときの妙子さんのはにかんだ笑顔を見ると、こういう生き方があってもいいんだよな、と思わされました。」とも言う。僕は、ある夫婦の愛の物語として読んだ。

「にせヤツ」は「本物のヤツ」よりハードだった

 先週八ヶ岳から下りてきて、来週もまた信高山岳会の例会「茅ヶ岳」で再会しようという話になった。そんなわけで、2月16日、信高山岳会の仲間とライトな日帰りということで「茅ヶ岳」登山を計画。集まったメンバーは先週の松田、重田、沼田、私の4人に高橋さんを加えての5人。

山梨県の韮崎市、甲斐市、北杜市(広域合併で地名がわかりにくくなってしまった)にまたがるこの山は、中央線を東京方面から来ると一際目立つ。が、それ以上に深田久弥氏が、登山中にこの山の山頂近くで亡くなったことでも知られている。山容が八ヶ岳に似ていることから、それと間違える人も多く、俗に「にせ八(やつ)」とも呼ばれている山だ。しかし、高さはおよそ1700mほどで、本家の八ヶ岳に比べれば1000m以上低い。

小生にとっては約20年ぶりの見参。秋のとある日、当時同僚だった星野さんと二人で、韮崎の登山口から登ったが、静かな木漏れ日を浴びながらの登山だった(ように記憶している)。今回は、須玉ICで降り、北杜市(旧明野村)から入山し、隣り合っている「金ヶ岳」「茅ヶ岳」を縦走し、ぐるっと一回りするコースを辿った。先週の八ヶ岳では、風雪に悩まされたので、今回は緯度も標高もはるかに低い県外の山で、気楽な登山をするつもりだったのだが、現実はさにあらず、まさしく「厳冬期の」冬山ラッセル登山となった。

今年の雪は、南岸低気圧の通過による雪、俗に言う「カミ雪」が多いせいか、山梨県のこの山にも、想像をはるかに超える積雪があった。しかも、ここ数日低温が続いているため、樹林帯の中の雪はしまっておらず、ふわふわの状態で、歩いている時間のほぼ8割方は、ラッセルを強いられるという登山。最初からそういった想定であれば、わかんを用意していったところだったが、まさに想定外の大雪に、そんな準備もなく、結構往生した。しかし、そうはいってもそれほど大きい山ではなく、登山口からの標高も800mほど。登り始めてから、およそ3時間ほどの悪戦苦闘の末、最初のピークである「金ヶ岳」(1764m)に着いた。

南には富士山、西側の正面には甲府盆地を挟んで南アルプスの屏風のようなパノラマが展開し、北西にある本家「八ヶ岳」は頂上を隠してはいるものの、堂々とそびえている。北には佐久平の特徴ある山が個性を主張し、奥秩父の峰へと連なっていた。マイナールートであるためだろうか、山頂には他には誰一人おらず、静かさの中に広がるその素晴らしい景観は、飽きることがなかった。大休止ののち、南東の双耳峰のピークを経て、一端大きく下り、登り返して「茅ヶ岳」に到着。こちらはさすがに深田氏終焉の地、数人の登山者が韮崎からのメインルートから登って来ていたが、意外にも単独登山が多くてびっくりした。

僕らは下山路も、誰も辿っていない「千本桜」ルートをとり、処女雪を踏みながら、最後まで静かな山登りを満喫した。終日気温は上がらず、身の引き締まるような、まさに厳冬期の山で、本チャンの「八つ」でも経験しなかったような厳冬期体験ができた。寒かった山から下りたあとは、北杜市の明野温泉太陽館で汗を流したが、目の前の南アルプスと富士山を一望できる贅沢な風呂だった。極楽!極楽!

岳人で紹介「木曽高校定時制アウトドア部」

「岳人」で、今月(3月)号から、「高校山岳部の仲間たち」という見開き2ページの連載記事が始まった。シリーズで、全国の高校山岳部をとりあげ、その紹介をしていくという企画である。光栄にも、その第一弾として、我が木曽高校定時制アウトドア部を取り上げていただいた。原稿は、本校アウトドア部部長の田中岳君が書いてくれた。正統派の山岳部とはちょっとちがった「定時制」の「アウトドア」部ではあるが、こんな部活動もあるということで、興味のある方は「岳人」3月号を買って読んでください。

これから、全国の高校の山岳部が取り上げられていくはずだが、次はどこが取り上げられるのだろうか?毎号岳人を読む楽しみが増えた。

編集子のひとりごと

暦の上では春になって、日中の日差しは少しずつ和らいではきたが、寒い日が続いている。夜の教室は寒いので、ダウンの上着を着込んで授業している。勤務を終え、1時間半の通勤を終えて家に帰り着くのは、12時少し前。空を見上げると、春の星座が見え始めている。(大西 記)