不定期刊行            258号  2008.6.01

中信高校山岳部かわらばん     編集責任者 大西 浩

木曽高等学校定時制

「日本登山医学会学術集会」―第28回日本登山医学シンポジウム

お門違いと嗤われるのを承知で、昨日誘われるままに富山県宇奈月で行なわれた標記集会に参加してきた。朝5時半、長山協会長の柳澤昭夫さん、朝日新聞大町支局長の山田新さん、長野県立子ども病院医師の井口まりさんとともに大町を出発。8時ちょっと過ぎ、会場の「宇奈月国際会館」に到着、開会を待った。

会議は定刻9時より、鹿屋体育大学の山本正嘉先生の「登山はエアロビクスの最高峰」という基調講演から始まった。・・・ジョギングでは激しすぎウォーキングではそれほど効果があがらないということを考えたとき、それぞれの短所を補う運動として、「登山」は、両者の中間に位置する適度な運動として捉えることができる。坂道を上り下りする「登山」においては、「登り」は言うに及ばず「降り」にも大きな効果があるという報告はわかりやすかった。「登り」では、心肺機能はもちろん、短縮性伸縮を伴う運動のため遅筋線維が鍛えられ、脂質代謝に有効に働き、逆に伸張性運動である「降り」は速筋線維が鍛えられ糖代謝に効果があるそうだ。だから、例えば「運動嫌いの糖尿病患者」などは車やケーブルで山頂まで登って、自分では「降るだけ」でも効果があがるのだそうだ。また、彼の「マルコポーロ」は「東方見聞録」で中央アジアを通ったときのことを「病気になった者は高地にでかけ2、3日滞在すると元気になる。」と記述しているそうだが、低酸素環境での運動は、血圧の降下、糖質や脂質代謝の改善に効果があるという報告もあるそうだ。さらに、実験によれば低酸素室でトレーニングすると「筋力アップ」することも明らかになっているそうで、これは最近流行の「加圧」トレーニングなどの原理とも通ずるのだそうだ。体力相応の山で「運動処方」を導入していけば、「登山」は「エアロビクス」の最高峰である。・・・なるほど納得、こうして始まったシンポジウム、続いては「山はメタボに有効か?」という大会長の高桜英輔ドクターの講演。題からして興味深い。・・・

閑話休題、長山協にも「医科学委員会」という委員会があるが、この委員会、かつては「医師」のみで構成される委員会であった。しかし、4年前から、医師だけでなく、理学療法などの専門の知識をもった国体のトレーナーに加え、各支部(山岳会)から選出された委員を加え、「登山者」の目線から「医科学」を捉え、より安全により困難な登山をするための医科学知識の普及を主眼において活動し始めた。具体的には長山協ニュース「やまなみ」などにおける「広報」や事業「山のセミナー」などでの報告がその主な活動の場であるが、その記事や講演に大いに刺激されることもある。数年前の「セミナー」において長山協の「古原和美」名誉会長から、「登山医学会というものがあるが、『一般の登山者』が参加しても得るものが大きいのに、参加者が少ないのが残念だ。長山協からも大いに参加して勉強してほしい。」と発破を掛けられたことがあった。そんなことも頭の隅にあったからだろう。「今年の集会が富山という比較的近い場所で開かれる」という話を聞いたとき、お門違いとは思いながらも「行ってみようかな。」という気にもなったのだ。確かに専門的な知識のない私にとって、難しい話もあったが、かといって敷居の高いという感じは受けず、むしろ楽しい一日であった。

内容は、先の2本の講演に続いて、シンポジウム形式で進められ、1「高所環境の有効利用」2「マウンテンメディカルレスキュー」という区分の中で、次から次へと合計で15本の報告があった。黒部に生きる写真家「志水哲也」氏の「黒部幻の滝と日本の秘境」と題するセミナーや「黒部って凄い!−昨年の救助活動より−」と題した「阿曽原小屋」主人の「佐々木泉」氏の講演なども交えた構成で、退屈をする間もなく刺激的な一日だった。

紙幅の関係でこれ以上は、紹介できないが、過去のこの集会の報告をホームページで見ると、「抄録」がアップデートされているので、今大会のものも近くそうなると思う。私が生半可な知識でまとめるよりは、そちらを見て頂いた方がいいだろうとも思う。ところで、会場には医者や運動生理学者に混じって、何人かの岳人の姿も見かけた。古原先生の言うように、「登山者」たる我々の参加する意義を充分に感じることができる一時であった。当の古原先生も当然会場におられたが、老いて益々盛ん、その矍鑠たる姿と変わらぬ向上心を目にしてただただ敬服。

高校生女子クライマー急募(長野県限定)

県内の高校の先生方に訴えます。クライミングをしてみたいという「女子」はいないでしょうか?今年から国体山岳競技が大きく変わり、種目は「リード」と「ボルダー」になり、選手も2人となります。この変更に向けて、これまでも長山協としては、森山競技部長、浮須国体委員長、中嶋ジュニア委員長を中心に、スポーツクライミング、国体、ジュニアの3委員会がタイアップして取り組み、少年男子においては一定の成果もあがってきています。しかし、残念ながら女子の方は選手発掘の段階でうまくいっていないのが実情です。長山協の「ジュニアクライマー」養成のコンセプトは、単に目先のことではなく、自然の岩場なども使いながら「中長期的な展望を持って、自然の楽しさを伝える」というところに置いています。実際木曽高では、森山さんや中嶋さんに開拓してもらった「権現の滝」や「隠れ滝」、時には駒ヶ根の人工壁にも足を延ばしてクライミングをする中で、生徒が楽しんでいる姿を目の当たりにします。木曽高では、3年前に卒業した女子(全日制)が一人国体に出た折、「権現の滝」で練習を積んだということもありましたが、その後全日制の部員はおらず、私の見ている定時制の女生徒たちは、勤務の関係などもあり、国体参加までにはいたっていないのが実情です。

そんな状況の中、県内山岳部顧問あるいはクライミングに興味のある先生方に訴えます。山岳部でなくても構いません。身近なところに「クライミングに興味ある生徒」がいたら、大西まで連絡して下さい。国体に出てくれれば最高ですが、当面そうでなくてもなくても、「中長期的な展望を持って」長山協で体制を組んで面倒を見ます。ぜひ申し出て下さい。お待ちしています。

編集子のひとりごと

針ノ木の慎太郎祭、上高地のウェストン祭、八ヶ岳の山開き、6月に入って最初の日曜日の今日は各地で山開きが行なわれたというニュースが流れていた。昨日の雨とは一転、長野県はどこも快晴の爽やかな天気。こういう天気が今週末にも訪れるといいのだが・・・。県大会、上高地徳沢でお会いしましょう。(大西 記)