不定期刊行            259号  2008.6.18

中信高校山岳部かわらばん     編集責任者 大西 浩

木曽高等学校定時制

「富士山測候所を活用する会」の活動

登山医学会に参加する中で、感じたことを書いてみたい。我々にとっては非常に価値のある「登山医学」の分野においては、なかなかサンプルを集めるのが難しいのではないかということを感じた。多くの研究や報告の中で、被験者はご自身や身内、山仲間を使っての報告であった。まあ、当然と言えば、当然であるが・・・。

我々は「山や」として、様々な事例を体験し、また実感として日頃感じていることも多い。当然のことだが、「山」は、平地とは違う環境でもあり、平地のようにすぐに医療機関にかかれない環境でもある。その意味で、「山の医学」について、我々はもっと関心をもっていい。そして、我々自身がもつ「体験」をこういったことにもう少し役立てられるような体制があれば「登山医学」という部分にも貢献できるのではないだろうか?

その意味で、この登山医学会の中で知ったNPO法人「富士山測候所を活用する会」の話は興味深かった。2004年、富士山測候所はその使命を終え、無人化された。もちろん日本最高所にある建物だ。その立地条件を活かして、「富士山測候所を活用する会」というNPO法人を立ち上げ、地球規模の環境問題の研究拠点として、この測候所の施設の一部を借り受け、様々な研究を続けているというのだ。この法人の中心的なメンバーの一人で、筑波大学名誉教授の浅野勝己先生は、ここを「高所医学の研究拠点」としたいということを話され、自らが継続的に研究しておられる「高所の短期滞在時の生理応答」の検討結果を、「富士山頂における睡眠時および安静、運動時の生理的応答」と題して報告された。一方で鹿屋体育大学の山本正嘉先生のグループは「富士山を高所トレーニングの場として利用する」研究もすすめているそうである。休憩時間のとき、浅野先生、柳澤さんとした立ち話の中でも浅野さんが強調していたのは、この事業のための協力者や被験者が不可欠なことを強調されていた。

海外遠征の時などには当然のように僕らも富士山には通ったものだ。あるいはまた、そうはいっても日本最高所の富士山に高校生たちを連れて行く機会がないわけでもない。もしそういった時に、これらのグループの活動に協力できれば、どちらにとってもメリットがあるだろうし、継続的に協力体制がとれれば、互いに大義名分のもとに「山」にいくこともできる。引いては「登山医学」の分野にもささやかながら協力できるのではないかと思った次第である。浅野先生もそういうことについては、大歓迎だとおっしゃっていた。富士山に行くような時は、連絡をとってみてはいかがだろうか?

一方で、「乗鞍コロナ観測所」が2009年までに観測を停止し、廃止されることが決まったというニュースが、6月4日付信毎の一面に大きく取り上げられた。こちらも60年の歴史に幕を閉じると言うが、2010年度以降同観測所の施設、設備をどうするかは未定だとのことでもある。富士山には及ばないが、こちらも3000mの高所にある建物である。何か、知恵を絞って使える方法はないものだろうか?或いは富士山と連携して何かできないか?しかし、先立つものは○○でもあるという。富士山でも運営費が2ヶ月で2000万円かかるそうだ。その意味でもサポーターが必要だとのこと。

高体連県大会無事終了

高体連の県大会が終了した。24年ぶりという蝶ヶ岳での大会は、全コースの半分以上が雪上ということで心配もあったが、オブザーバーも含め、全くトラブルもなく、2日目の午後3時過ぎには全員がベースの徳沢に無事帰着した。小生は、松田さんと二人大会初日の5日、雪の融け具合をみながら道迷い防止のための「赤タン」を張りに入り、二日目は、全体の先導ということで、コースを二周した。松田さんも二日目はポイント撒きで先行。雪融けは思った以上に進み、場所によっては先々週の下見時に付けた「赤タン」が頭上二メートルにあるようなところもあった。そうは言っても雪上歩行がないわけではなく2200m付近から上はほぼ雪上。慣れているチームとそうでないチームとの間の差は歴然であったと思う。「思う」というのは、先導の僕は、実際に生徒が山を歩く姿を見ているわけではないからだが・・・。

今回、「蝶ヶ岳」で実施するにあたっては、慎重論も含め様々な意見を乗りこえての実施だった。僕自身は以前から何度も訴えているように、長野県の高校山岳部の安全登山のスタンダードとなりうる「県大会」は、地域の特殊性もあるので一概にとはいかないにしても、ある程度雪上での技術を試されるような場面が必要ではないかと考えている。今回の大会の経験が、これからの大会にも継続されていくことを期待する。

これまで長野県大会は、「全てが、『パーティ行動』であること」を始めとして、運営上の理由で全国大会とはいくつかの点で異なった内容で行なってきた。その長野県の大会では今年初めて「知識」テストを導入した。この意図は、生徒の事前の山域研究を促進するためであった。問題は不肖小生が作成したが、どうだったろうか?地図も含めHPにアップすることになっているので、ご批判、ご意見等お寄せいただきたい。

編集子のひとりごと

四川省義援金募金活動に関わって、かわらばんの257号を送った翌日、下諏訪向陽高校の浜恒弘先生から次のような嬉しいメールが送られてきた。「浜です。四川省への義援金振り込みました。よろしくお願いします。ちょうど私達の隊(第2回訪中隊)がお世話になったところだと思います。『都江堰』とか震源地の『汶川県』辺りは行き帰りに通過した街ではないかと思います。われわれの登った山とか山に入る前に泊まった松潘や登山の後行った世界遺産の『九寨溝』なども相当の被害があるのではないかと思います。もちろん成都も大変な事になっていて心配ですが。」浜先生が四川省を訪れたのは、1990年の第2回訪中隊のときだったかと思う。信高山岳会は四川省登山協会や麓の部落の人たちから「多くの財産」を頂いて、今があるのではと思っている。早速の嬉しい反応だった。また群馬高体連の高橋守男先生からも「かわらばん」を見てということで、「日常考えている範囲を少し拡げるきっかけになればというのと、大西さんと交流登山のかかわり方に少し応援できればとの思いです。」という一文を添えた志が届いた。

県大会の中でも、この取り組みを紹介したところ、浮須さん、重田さん、福島さん、小林さんなど訪中隊で四川を訪れた先生方からもやはり心配であるとの反応がありました。現在、長野県山岳協会では、中国の事情に詳しい田村宣紀顧問(元会長)などにお願いしながら中国登山協会を通じて四川省登山協会と直接連絡をとろうとしているところだ。改めてみなさんのご協力をお願いいたします。(大西 記)