不定期刊行            260号  2008.7.2

中信高校山岳部かわらばん     編集責任者 大西 浩

木曽高等学校定時制

日山協の「遭難対策委員会」の総会、研修会

6月最終週の土日、日山協の「遭難対策委員会」の総会、研修会が福井で開催された。近県でもあるという理由で、長山協から高橋遭難対策委員長、西田副会長、伊澤指導委員長とともに参加してきた。新潟からは前高体連専門委員長の新保雅稔さんが参加されており、旧交を温めることもできた。

さて、土曜日は半日使って研修が行なわれたが、そこで行なわれたのは、セルフレスキューにおける「懸垂下降」が主であった。遭難対策委員会の「無雪期レスキューの講習項目」の中の、「懸垂下降」に関わる該当箇所を抜き出したものが下表である。

ラッペルコントロール

ラッペルのセット

 

 

バックアップ

・ハーネスに懸垂器具を直付けすると仮固定しにくい

・スリング等で懸垂器を身体から離し、ハーネス側にカラビナをセットし、ターンを作る

・懸垂器とハーネス側カラビナの間のメインにオートブロックを作る

ラッペル中のロープ仮固定

ロープの仮固定

 

バックアップ

・ターンが作ってあると、片手で止め、片手がフリーになる

・ミュールまたは2,3巻きしてから割をいれて仮固定する

・オートブロックが作ってあると手を離すと止まる

・ただし作業するときは必ずメインロープで仮固定してから実施

介助懸垂

介助懸垂の体勢

・負傷者が意識があり足を使えるときは少し間をあけ介助

・負傷者が意識がないときは下側に密着し抱え込むようにこのときは一人では困難でディスタンスブレーキを使用する

振分救助

振分救助のセット

・デイジーチェーンを用い過重がかかっても救助者の手の届くところに振分のポイントを構築する

研修会では、実際にこの表にあるように「スリング等で懸垂器を身体から離し、ハーネス側にカラビナをセットし、ターンを作」り、「オートブロックを作って」「手を離すと止まる」状態で、単独での懸垂、介助をしながらの懸垂、振分救助を体験してみた。実際にやってみての感想を述べると、この場合重要なのは、「オートブロック」を作る際のスリングの種類と巻き付けの回数、さらにはその長さそして慣れであると感じた。

実は、このことについては、長野県山岳総合センターの専門主事の中嶋岳志さんが、「懸垂下降時におけるスリングの巻き付け結びによる墜落防止の方策(いわゆるバックアップ)について」という「実験」をされており、その「結果」を同センターのHP上で詳細に報告されている。中嶋さんの研究は「懸垂下降時のバックアップに使うスリングの種類、巻き付け方、巻き付ける回数によって下降のしやすさと安全性がどのように変化するか」という目的で行なわれたものだ。内容については非常に興味深い結果が出ている。URLは( http://www.pref.nagano.jp/xkyouiku/sance/backr.pdf )である。今回の研修の場面では、ダイニーマの40cm(特注)のスリングや、デイジーチェーンの弱点を補って出された「PAS」などの製品が紹介されたが、「山や」としては、実際に携行することの多い様々のスリングを使ったこの中嶋さんの結果が大いに参考、かつ実際の行動の裏付けになる。中嶋さん自身は、この実験の「追試」をと提唱しているが、8月に行なわれる長山協の「指導」「遭難対策」と「山岳総合センター」共催の講師講習会などでも試してみたらいいのではないかと思った。

日山協の「遭難対策委員会」の総会、研修会 その2

標記総会、研修会の報告その2は、高校山岳部の課題にも触れながら、先に紹介した新潟の新保さんがメールで感想を送ってくれたので、それを紹介して報告に変えたい。

遭難対策委員会お疲れ様でした。帰宅したら長岡は大雨でした。すでにご承知のことと思いますが、文登研の高等学校高等専門学校登山指導者夏山研修会については、昨年度からレベルを3段階に分け案内文書に明記して募集しています。簡単な文言ですが、(上級)八ツ峰の岩場等を利用して・・・(中級)長次郎雪渓や平蔵雪渓・源治郎尾根等を利用して・・・(初級)別山尾根を利用して・・・剣岳山頂を目指します。などと書いてあることで申し込みしやすかったと、昨年の受講生アンケートにその成果が記されていました。高校顧問の登山技術取得のニーズが変化してきていることを痛感しています。かつての文登研夏山研修会とはだいぶ雰囲気が異なってきました。「クライミング競技はボードを使えばいいから岩登りは必要ない」「高校生は縦走だから岩登りの技術は必要ない」「遭難しそうな山域で登山大会をしない」「インターハイで勝つ方法をこの研修会で教えて欲しい」・・・いずれも昨年の受講生の言葉です。総じて「厳しい研修会は必要でない」という雰囲気です。ではなぜ研修会に参加したのか?こういう機会でもないと剣岳に登頂できないから・・・。少し淋しい感じがします。それでも参加者が低迷していることから、今年度から登山指導者研修会「縦走」と名称を変え、社会人の人達との混合で、高等学校指導者研修会が実施されます。今年はどんな受講生が参加するか楽しみです。国立立山少年自然の家との共催事業であった「集団登山指導者研修会」が、同施設の独立行政法人化に伴い、成果はあっても参加者が減少傾向にある研修会などを切り捨てざるを得ず、平成18年度を持って閉講となり、結果としてその受け皿を文登研の夏山研修会に移行した形になっていますので、このようなレベル分けの明記は必然のことと考えられます。

前置きが長くなりました。関西大学の青山先生のお話の中で文登研のシラバスの話が出て、ちょっと大変だなと言うのが実感です。長野県の山岳センターでの講習会や研修会ではどうでしょう。HPなどを拝見する限り、かなり体系化していると思われますが・・・。大まかな目標とある程度の技術レベルの確認ができれば良いのではないかと思うのですがどうでしょう。シラバスを細かくすると「この方法で」という限定がつくので、外部講師に委託している文登研では、講師の選び方によりシラバスが大きく変わることが予想されます。今回の遭難対策委員会でも至る所に話が出ていましたが、様々な技術の中でいわゆる日山協方式とガイドの人達の手法は、けっこう異なっていることが多く、その統一は難しいと言わざるを得ません。現在の文登研講師はガイドの方々が中心なので、その中だけでは打ち合わせもスムーズで技術論で問題となることは少ないのですが・・・。一時は新潟高体連登山専門部の中でも技術講習会の内容と方法で、かなり議論した経緯もあり、詳細な指導要綱があればいいなと思った時もありましたが、その難しさがようやく分かってきたような気がします。(新潟県 新保雅稔)

編集子のひとりごと

夏山に向け、7月8日の中信安全登山研究会(大町北)に計画を持ち寄ろう。(大西 記)