不定期刊行            262号  2008.7.13

中信高校山岳部かわらばん     編集責任者 大西 浩

木曽高等学校定時制

シェルパに慕われた「タケ(ママ)サーブ」・・・武田武さん逝く

先週、元長山協会長の武田武さんが急逝された。お聞きするとご自身講師を務めておられたNHKの登山教室の講演会の最中にご気分が悪くなられ、緊急に相澤病院に入院、そのまま不帰の人となられてしまったということだ。長野県はもとより日本山岳界にとっても惜しい人をなくしたという思いが湧いてくる。

1964年の「ギャチュンカン」遠征の報告書には「シェルパに慕われたタケサーブ」という標題で武田さんのことが書かれている。曰く「からだが隊員の中でいちばん小さいところから『チビタケ』と呼ばれるが、『なにしろ全日本山岳連盟公認スピッツですから、へたにかまうと猛烈にほえつきますよ』という口の悪い隊員がいう。彼の生一本な性格とファイトを端的にあらわしているものだ。こんどの遠征で、キャラバン中も、また登山中も、シェルパたちから、なにかにつけて『タケダサーブ』『タケダサーブ』といって慕われたあたり、愛される生一本さを物語っている。」と。・・・個人的には、4年前にネパール山岳協会との協定調印でネパールへ行く直前に、思いがけない出来事がありその善後策について直接お宅へ伺って貴重なアドバイスをいただいたこと。今年の1月には信高山岳会の25周年祝賀会の折に出席して下さり、「乾杯」のご発声をいただいたが、いつも通りの大声で気合いを入れられたことなどが思い返される。4月に長山協の総会にお見えいただいた折も、まだまだ意気軒昂な様子は相変わらずで、こんなにも突然お別れすることになるとは思いもしなかった。8日に執り行われたご葬儀は、会場に入りきれない弔問客が通路まで並びその死を悼んだ。心からご冥福をお祈りします。

登山用語の統一について

261号へいただいた感想の中に「業界用語がよくわからないところありました。」とか「ラッペルという言葉が出てきて耳慣れない語句なのでとまどっていました。」というものがあった。遭対委員会の講習項目をそのまま抜き出した部分がその主な部分だろうと思う。「ラッペル(rappel)」とはフランス語で懸垂下降」のことをいう。ドイツ語ではアップザイレン(abseilen)という。

登山用語については、高体連でも「主な登山用語」を挙げ、自然観察の試験範囲にしている。この「用語集」の選定にあたっては、「気象テスト」の当時全国常任で審査に関わっておられた新潟の吉田光二さんが随分お骨折りをされたが、その過程では私も個人的に何度か相談を受けたことを記憶している。それに先立つ数年前、私自身も審査員としてIHに参加(京都、高知)したがそのときの審査員会で問題に出された「へつり」だの「高捲き」だのといったことばが適当かどうかなどといった議論をしたこともあった。かくして高体連では、「全国大会が実施される夏山としての、ごく一般的な登山用語の解説」として「装備にかかわる用語は割愛し、説明は地域性、語学や学術的な考え方を除いて、高体連登山専門部として簡潔にまとめた」ものを示すようになり、「登山と気象知識」「救急テキストの指定」などとあわせて、一つのスタンダードになっている。(*この間直接関わっていたわけではないので、誤り等があったらご指摘願いたい。)

さて、その上で、「高体連」という部分から外れてもう一度用語の問題を考えてみたい。登山の世界では、日本語、英語、フランス語、ドイツ語などが入り交じり、大変に紛らわしい。山岳会により、また時代(世代)により色々な言い方がされるので、とまどうことも多い。そんな実情に対して、長山協では遭対委員長の高橋さんが昨年の長山協キャンプで「用語」について「巷に溢れている登山用語を調べ、とにかく集めてみよう。」という提案をされ、結び方などについてご自身の調べたものを提示してくれた。これは「色々な言い方で言われているがゆえに起こり得る意思疎通上の齟齬を少しでもなくすことへの第1歩を踏み出したい。」という提言である。

ロープ(これとてザイルという言い方もある)の「結び方」の一つを例にして、実際の場面を想定してみよう。「クローブヒッチ」「マストノット」「インクノット」「巻き結び」「クラブヒッチ」「徳利結び」。ご存じかとは思うが、ここに挙げた6種の呼称はすべて同じ結び方である。確保の際に誰でも真っ先に覚えるこの結び方を、みなさんは普段どんな呼び方をしているだろうか。もし高校生に教えるときに、ある講師は「クローブヒッチ」といい、まだうろ覚えのところに別の講師が「インクノット」といえば、初めて教わった者は間違いなくとまどうだろう。また、「クローブヒッチ」という呼称で覚えたものが、現場に出たとき、別の人から「インクノットで固定して」とか「インクノットのところ解除して」と言われたりしたら「えっ?」となるだろう。

それなら一つに統一すればいいかというと、ことはそう簡単にはいかない。それぞれが使い慣れたことばはおいそれとは変えられないだろうし、ましてこれまでに出された膨大な数の技術書や登山関連の本の記述を統一することなどできうるはずもない。となれば、同じことをいうのに複数の言い方があるのを知り、認めつつも、段々に精選していくというより他ないだろう。高橋さんの作製したものはみんなで補足したりしながら、完成度の高いものにできれば意味のあるものとなるだろう。長山協のHPなどを活用しながら、そんなことができればと考えている。

今年の夏休みの計画検討(中信安全登山研究会)

今年から事務局を担当している西牧さん(大町北)のご尽力で、7月6日、大町北高校において恒例の「中信地区安全登山研究会」が開催された。柏原大町北校長をはじめ、遠藤、松田、大西と出席者はいつもの?顔ぶれであったが、中身は濃いものであった。

学校登山は白馬、大町、大町北の3校で行なわれるが、昨年行えなかった白馬が今年は7月28、29の1泊2日で、1、2学年の135名が後立山の4コースに分れて実施、大町は今年も全校生徒が北アルプス全域で1泊または2泊で9コース422名、大町北はこじんまりとしているが、希望者10名程度で針ノ木を往復する。

各山岳部の活動では、大町はIH前に鹿島槍から唐松までの縦走。部員が11名と増えた深志が、合宿を八ヶ岳、縦走を穂高連峰で行なうほか、西穂追悼登山も計画。木曽青峰が駒ヶ岳で準備登山をするほか、前穂、焼岳方面へ、珍しいところでは大町北の富士山というのもあった。県ヶ丘は海の日を絡め島々から徳本峠、大滝・蝶を経て常念まで行き、夏休みはIHに向かう。検討会は、各校の情報交換や今年の山の様子なども含めながらおよそ1時間半に及んだ。議論の中身は、事務局から参加しなかった高校も含め中信の山岳部のある高校に送られるので参考にされたい。