不定期刊行            266号  2008.8.19

中信高校山岳部かわらばん     編集責任者 大西 浩

木曽高等学校定時制

私の「夏山便り」その1 剱岳周辺での文登研研修会 実技編

8月1日から6日まで「文登研」の「登山指導者研修会(縦走)」に講師として参加してきた。「縦走」と銘打って今年からできたこの研修会は、Aコース(高校山岳部顧問対象)、Bコース(社会人・大学のリーダー対象)から構成されている。文登研から「講師を」と声がかかったときには、私にそんな大役が務まるか甚だ心許なかったが、せっかくのお誘いでもあったので、自分自身の勉強にもなるだろうと引き受けた。私の担当したAコースの参加者は全国から14名。主任講師は栃木県高体連の渡邊雄二さん、副主任講師は明治大山岳部炉辺会の山本篤さん、Aコース担当の講師は杉坂勉さんと島田和昭さんというプロガイドが2名、岐阜の瀬木紀彦さんと新潟の新保雅稔さんに僕も含めた教員が3名という構成。私は杉坂講師と2人で上級班6人の担当ということになった。

1日は講師打ち合わせ、研修は2日から開始され、主任講師の講義、入山食の決定・注文、装備の確認、研修場所の設定等々、事前講習を挟みながら入山準備が慌ただしく進んでいく。3日は、早朝研修所を出発。コンパスを使った地図読みの実習をしながら、室堂から別山乗越を経て、剱沢の前進基地へはいった。テント設営後、医療講師の道岸隆敏ドクターによる「夏の登山と医療」と題した講義を受ける。ちなみに道岸さんは、我が長山協や信高山岳会とも関係が深い清水公男ドクターと大学時代の同級とのことでもあった。話の中で、熱中症の予防に関わって「WBGT(湿球黒球温度)」という概念が紹介されたが、これは私にとって新しい知識だった。「WBGT」とは、人体の熱収支に影響の大きい湿度、輻射熱、気温の3つを取り入れた指標で、乾球温度、湿球温度、黒球温度の値を使って計算するものだそうだが、これを簡単に計る「熱中症指標計」を新保さんが紹介してくれた。この器機は、高体連の大会開催時に大会本部にはあってもいい器機ではないかと思った次第。それからもう一つ新しい知識としては、携帯型雷警報機「ストライクアラート」の紹介も私には目新しかった。どちらもインターネットで検索すれば簡単にわかります(為念)。

4日は前日の夜半過ぎから降り出した雨が朝になって猛烈な雷を伴い、とても「縦走」どころの騒ぎではなかったため、午前中は前進基地内でのロープワークの訓練を行った。雨があがった午後からは、剱沢小屋裏で、縦走中の悪場を想定して、自然物を使っての支点の構築、確保、固定ロープの張り方と通過方法に絞って研修を行った。明けて5日は実戦での訓練ということで、剱沢を下り、長次郎谷を詰めた。昨日できなかったアイゼン・ピッケルを併用しての雪上歩行、ルート選定の方法、途中のクレバス通過にあたってロープで確保しながらのルート偵察、急な雪渓で動けなくなった生徒をどうサポートするかを研修生自らに考えさせながらの実践等をしながら頂上へ向かった。今年の剱方面は残雪が多く、雪渓も危険箇所は少なく研修は効果的に進めることができた。下りは雪上での支点構築や固定ロープについて実戦的に訓練しながら、平蔵谷を下った。私の担当した班の先生方の多くは、顧問経験は長いもののアイゼン、ピッケルやロープを使っての山登りはあまり経験のない方が多かった。帰幕後の感想を聞くと「盛り沢山でなかなか一度には覚えられなかったが、これらの技術の重要性を認識した。」「今までよく事故が起こらなかったものだと反省しきりだ。」「ロープのないときにことばのロープで生徒に声をかけることを教えられた。」などという声が寄せられた。

最終日は、搬送訓練などをしながら無事下山をした。

私の「夏山便り」その2 槍穂高縦走

8月11日から13日、槍穂高縦走をしてきた。同行者は伊那弥生ヶ丘の下島順一先生。下島さんは高教組上伊那支部の執行委員である。6月のとある日、執行委員会の休憩時に、「大キレットを越えたいのだけれど。」という相談を受けた。「ならば一緒に行きましょうか。」ということで話は進み今回の山行と相成った。

11日6時半に新穂高温泉を出発してすぐに、高校生の下ってくる一団とすれちがう。福井県の敦賀高校の山岳部だった。県外からの北ア詣での高校生を見て、夏山最盛期を実感。我々は飛騨沢をつめて槍ヶ岳まで、天気も上々である。お花畑にはすでにトウヤクリンドウなどが花開き、山には秋の気配が忍び寄っている。午後になると次第にガスが上がってきて夕立もあったが、その前に頂上にも登った。頂上で景色を眺めていると、北鎌から2名の登山者が登ってきた。

12日は朝5時半に槍の肩を出発し、まずは大キレットをこえて北穂を目指す。朝から雲一つない青空が広がり、快適な稜線漫歩。中岳の雪渓下で、なんと水を補給中の岡山の田中初四郎さんに遭遇。何でもインターハイの審査を終えて、埼玉からの帰りがけの駄賃とばかり、その足で北アルプスに来たそうである。こんな話を聞くと、信州という抜群のロケーションにいる自分たちの恵まれた条件を再認識させられる。南岳からは慎重に下る。長谷川ピークを過ぎ、A沢のコル、飛騨泣きを通過すれば北穂はもうすぐだ。同行の下島さんの足さばきや手さばきを見ながら、どこまで行くかを決めようと出発したが、岩場での身のこなしも不安がない上、北穂への到着時刻は10時50分である。天候もまだ数時間は安定しているように思えたので、白出のコルまで進むことにした。大休止をし、11時30分北穂発。鎖場では、ザックのウエストベルトと鎖をスリングでつないで確保しているというという非常識な登山者に唖然!涸沢岳の直下の九十九折れの箇所で先行の単独行者が石を落とした。直下にいた登山者のわずか2mほど後方を直径5cmほどの石が落ちていった。何もなかったからよかったものの、何もコメントもなく先へ行こうとする無責任・登山者に思わず一喝。遭難者が多発している現状の一端を垣間見た気分。・・・13時30分白出のコル到着。

夜半からは雷鳴と大雨となったが、朝方にはすっかり上がり、3日連続の登山日和。5時半に出発し、最初のピーク奥穂山頂から今日辿るべき西穂までを遥かに見渡す。馬の背、ロバの耳、ジャンダルムと緊張が強いられる岩稜が続く。天狗のコル、間ノ岳を経て10時5分に西穂到着。独標で、落雷により亡くなった先輩への祈りを捧げたあとは一気に下った。思えばこの区間を通して歩くのは大学の時以来およそ30年ぶりのことだった。久しぶりの槍穂高縦走は、新鮮なものであった。

編集子のひとりごと

今日は雨の中、中信高体連専門委員による新人戦の下見。新人戦は9月19日、20日に松川村馬羅尾高原キャンプ場一帯、雨引山で行われる。(大西 記)