不定期刊行            268号  2008.9.12

中信高校山岳部かわらばん     編集責任者 大西 浩

木曽高等学校定時制

2008夏のセンター講師講習会

8月30日、31日の両日、山岳総合センターと長山協遭対、指導両委員会共催で「講師講習会」が開催された。30日は雨で入山ができなかったため、会場をセンター及びセンター人工岩場に移しての実施となった。小生の班は遭対委員長で諏訪山岳会の高橋さん、大町山の会の榛葉さん、栗原さん、松本登高会の村田さん、GDMの宮本さんら顔馴染みのメンバー。

初日は、人工岩場を使って一通りのレスキュー技術のおさらいをしようということで、いくつかの想定をした上で、支点の構築、懸垂下降、岩場でのトップの墜落のレスキュー、索道の張り込み等を行った。夕刻からは本来はビバーク訓練と言うことだったが、センター泊となったため、急遽柳澤さんによる講義が行われ、テキストについての詳細な説明がなされた。大事なことは、「山を把える力を養うこと。」「チームがヒューマニズムで武装されていること。」「そうであるために、何が一番重要であるか考え続けること。」という原点に立っての経験に基づいた話は、示唆的かつ刺激的であった。なお、このテキストは前号の「かわらばん」でも紹介したとおり、容量の関係で写真は省略してあるものの、本文はすべて長山協HPにアップされている。「2〜3人のパーティでロープを使う山へ行き、トラブルが発生したとしたら自分たちの力でどうやって家まで帰るか」ということをイメージしながら、ぜひ読者の皆さんにも一読してもらいたい。かなり明確なイメージが描けると思う。これは一つの提言である。しかし、柳澤さんも言われているように決して「絶対」ではない。長山協として、これをみんなで議論しよりよいものに練り上げていかれるような形をつくることが求められている。そのためにこの手の講習会がより「開かれていく」ことが大事だ。

夕食はそれぞれ自前で用意することになっていたが、期せずして食糧の研究ができたのも収穫。カルビーの「じゃがりこ」(サラダ味)を空けてその中にお湯を入れて作る簡単ポテトサラダ、こんにゃくと竹輪を使ったお好み焼き、簡単パスタなど参加者それぞれの工夫が面白かった。

翌31日は、朝から晴れ上がったので、研修場所を当初予定の七倉沢へと移動して前日の内容を実際の場面で応用して研究した。背負い懸垂、索道を渡してのタンカ搬送、様々なタンカの制作と検討。場や状況、手持ちの装備、パーティの人数などに応じて、その場で効果的な搬送方法は何か、パーティとしていかにその危急状況を脱するかということを実戦的にシミュレーションし、試してみた。それぞれがそれぞれの知恵を出し合いながらのこの研修会はいつでも新しい発見がある。

たとえば「タンカ」の作り方の一場面。最初に木を切り出してロープを使ってオーソドックスなタンカを作ってみる。このタンカなど何年も継続してこの講習会に参加しているこのメンバーなら、それぞれが阿吽の呼吸でその場の役割分担を心得るから、即座に頑丈なものができあがる。続いてロープタンカ、ザックを使ってのタンカなどそれぞれに試してみようと話は発展する。私がザックを使ってタンカを作ってみると、そこに先にオーソドックスなタンカの枠組みとして使った木を通せば、なお安定したものになるのではないかと新たな提案が出てくる。早速試してみると、これが具合いいというような塩梅で次から次へと知恵が出てくる。まさに知恵の出し合い、創造的な講習会たる所以である。

一通り試してみたところで、最後は高橋さんの提案で、「一人の負傷者を登山口の安全地帯まで実際に搬送してみよう」ということになった。ジャンケンで搬送される負傷者役になったのはなんと小生。「背負い搬送」で足場の悪い沢を下ろうということになった。「背負い搬送」にもいろいろな形態があるが、負傷者である私がハーネスをつけていたという想定で、今回はハーネスとザックを併用した形を工夫した。空にしたザックに尻あてになるクッションをいれ、私のハーネスからとったスリングをザックの肩ひもに結びつけて背負うためのシステムは完成。最近紹介されることの多い「カッパを使った搬送法」の応用と考えればいい。ハーネスからのスリングの長さをうまく調整できれば、背負われる方は椅子に腰掛けている感覚で、しかもレッグループによってきちんと腿が持ち上げられるので比較的楽だ。スリングが長いと背負われる位置が下がるため、背負う方も背負われる方も辛くなる。できるだけ高い位置で背負うのが味噌である。メンバーはおよそ3分に一回くらい背負い替えをしながら、また悪場ではロープで確保をしながら、およそ小一時間かけて道なき道をたどり、無事「負傷者役の私」を背負いおろしてくれた。ちなみに、前ページの写真は、負傷者役をカッパを結びつけたザックで背負い、懸垂で崖を下っているところである。こんなことを知恵を出し合いながらああでもない、こうでもないとワイワイ仲良くやりました。

「山を把える力を養うこと。」「チームがヒューマニズムで武装されていること。」「そうであるために、何が一番重要であるか考え続けること。」柳澤さんのいう原点のいずれもが磨かれたが、そこにもう一つ「山屋が山屋同士」顔見知りになっているということも、いざというときには大事なことだ。こういった講習会で他の山岳会の仲間と交流を深めるのもそれに大いに一役買っている。

編集子のひとりごと

無責任な首相の退陣表明に合わせ国会には解散風か吹き始めたが、下界にもようやく秋の風が吹き始めた。今年の夏山は史上空前の遭難があったと報じられている。小生、明日12日から14日まで滋賀県で行われる「中高年登山指導者講習会」に参加してくる予定。少しでも益するものを持ち帰れればと思う。(大西 記)