不定期刊行            282号  2008.12.04中信高校山岳部かわらばん     編集責任者 大西 浩

木曽高等学校定時制

63歳の現役高校生・・・温泉に誘われてアウトドアにはまる

本校の定時制にHさんという63歳の男性がいる。中卒金の卵として大手ゼネコンで定年まで勤め上げた人生の先輩である。そのHさんが今年は、定時制のアウトドア部員として活動し、その感想を書いてくれた。63歳の高校生の「青春」をお読みください。

第1回、久しぶりのウォーキングは悲惨に終わりました。のんびり歩いて自然でも楽しむつもりでいたのですが、朝食に牛乳を飲んでしまい、昼ごろになるとお腹がゴロゴロ、雉を撃ちたくても場所が見つかりません。止む無く19号線沿いで失敬してしまいました。歩くことに必死でとても自然を観察する余裕などありませんでした。とうとう最後は駅からタクシーに乗り妻籠宿まで、全くお恥ずかしい次第に相成りました。

第3回、クライミングは私の体力では無理で、見学に専念しました。大田切川は梅雨の時期で水量が多く圧倒されました。自然を守る河川改修が行われているようで、コンクリートを使わない工夫がされていて感心しました。アウトドアで大勢で食べる焼肉は格別美味しく感じます。少々食べ過ぎたようです。昼からは、見学を止め、近くで温泉を楽しみました。

第6回、妻籠から馬籠まではウォーキングといっても峠は勾配がきつく私には登山でした。皆からはどんどん遅れてしまい落合宿までは歩けませんでした。馬籠宿で皆を待つことにしました。峠近くの旧道は森林で薄暗く「こもれび」が幻想的な光景でした。疲れた身体で入る温泉が一番ですね。

第7回、阿寺渓谷の紅葉と清流には感動しました。浮世の垢が洗い流されたようです。若者と食べる焼肉はどうしても食べ過ぎになります。帰りは上松温泉に寄り、疲れをとって夜の授業へ。毎度のことですが温泉の後の授業はいつも舟を漕いでばかりでした。

第8回、山形風芋煮会。15年前の東北転勤当時を思い出しました。

結局、温泉と焼肉、芋煮・・・食べる企画には全部参加しました。気づいたこと、学んだことがたくさんあります。アウトドアは自然との新たな出会いです。至る所に歴史があり、美が残り、感動があります。しかし、私が思っている以上に体力は衰えているようです。衰えている身体を鍛え直し、来年度のアウトドア活動に挑戦、参加したいと考えています。もちろん、温泉と焼肉付きは言うまでもありません。

「登山研修交流会」の感想 その3  三村寛先生(木曽青峰高校)

11月1日の研修会に、木曽青峰高校ワンゲル部の生徒4人と参加しました。一週間前に、テント泊で八ヶ岳・赤岳へ登り、この9月から活動を始めた1年生2人もだいぶ山歩きに慣れてきたところでこの研修会に加えてもらい、たいへん有意義な1日となりました。中信地区をはじめ、県内外から登山部関係の先生方が集まり、生徒も加わって山に関する多くのことを教えてもらえるという機会はなかなか得がたいものです。私自身、朝な夕な、通勤で福島駅から毎日仰ぎ見ていた城山(児野山 ちごのやま)に初めて登ることができたことも大きな喜びでした。しかも、時はまさに「錦秋」、前夜半からの雨もさわやかにあがり朝日を浴びて一段と鮮やかさを増した紅葉を身にいっぱいに浴びての総勢二十余名でのにぎやかな山歩きとなりました。

まずは、学校のある小丸山(丘の上キャンパス)をゆるゆる下って福島の町をぬけ、木曽川にかかる行人橋を渡り城山の南端に開けた沢沿いを登って権現の滝へ。大西先生にクライミングの岩場(屏風岩)を見せてもらい、ここで小休止。赤や黄色の枝葉越しに対岸にはさっきまで居た丘の上の校舎がぽっかり浮かび、そこから目を上げれば、主峰の駒ケ岳に通ずる中央アルプスの稜線が徐々にせりあがって迫力を増してきました。来春は生徒たちとこの滝の近くにテントを張って、炭火焼肉や「流しそうめん」など、来年の新入部員歓迎には最適な場所になりそうだと話もはずみました。

ここからは少しずつ進んでは、読図の実習に時間を割いてもらいました。標高・地形・方位・縮尺など案の定、生徒たちは悪戦苦闘、普段から地図に慣れておかないといけないことを改めて痛感しました。まず、今、自分がこの地図のどこにいるのか、周囲の特徴ある地形を図中に同定するのにはかなりの読み込みが必要です。また、山中での正確な距離と地形の把握は、自分たちの脚力と勘案することで安全に目的地に着く時間を割り出すことにつながります。また、ただ山道を「疾走」するのではなく、地図で現在地を確認し、周囲を見ることで景色・木や花など山川草木のすべてと「友達」に成れればこれに勝る山の醍醐味はないでしょう。

そんなこんなで和気藹々、三々五々と城山の山頂に到着、北方には昨日、新雪を頂いたばかりの御嶽山が待ってましたとばかりに晩秋の透明な青空の中に聳え立っていました。全員で霊峰をバックに写真を撮った後、さて、ここからは生徒も私も「未体験ゾーン」のフィックスロープでの下降の練習です。ハーネス、カラビナなど初めての道具の使い方や「インクノット」の結び方を先生方に教わり、頂上から東に伸びる急傾斜の尾根道をロープを頼りに降りました。初めての体験に生徒たちも最初はとまどっていましたが、自然を相手にすることはどんな場面に出くわすか予想がつかないということと、そういう状況に出会ったらどういう判断・行動をとればいいのかの一端をここで少しは学ぶことができたと思います。

この後は戦国大名木曽氏の福島城本丸跡で小休止。周囲には400年以上前に構築された段曲輪・堀切などの遺構が残り、ふもとの福島の居館と一体になった最後の防御線としての「詰の城」のものものしさをうかがわせ、今、自分たちが居る場所が濃密な歴史の舞台であることをひしひしと感じさせてくれました。

腹ごしらえができた後は、傾斜がゆるくなってきた所で、搬送訓練です。歩行困難になった生徒を人力だけで運びおろすためにグループごとにいろいろな工夫をしてみました。被搬送者の腰のずり落ちをストックで止めたり、搬送者の後方でサポートする者の重要性、さらには搬送者の交代は、座らずに立ち位置のままのほうが腰に負担をかけずにすむことがわかりました。先生・生徒で背負い・背負われ、整備された山道を息も絶え絶えに下ってくると、いつの間にか、眼下に木曽山林高校の校舎が現れ、最後は同校の演習林入り口に通ずる黒川ダム湖にかかる吊り橋を渡りましたが、この周囲は四季折々のすばらしい景観が楽しめる閑寂境の趣です。統合のためこの「新開キャンパス」は今年度限りですが、今回、城山周辺のようすがいろいろわかりましたので、近間の活動場所として来年度以降、青峰ワンゲル部でしばしば訪れたいと思います。とにかく、内容の濃い、あっという間の6時間でした。前日からの研修の「勧進元」である大西先生・西牧先生や「世話役」の田口先生、ご指導いただいた諸先生方、ほんとうにありがとうございました。参加した生徒たちは多くの新しいことを学ぶことができ、山の楽しみ方のバリエーションが一気に豊富になったことと思います。一週間前の八ヶ岳登山のような「弾丸登攀」とはまったく違った「考え、工夫する」山登りの大切さを教えていただき、深まりゆく「木曽の秋」を満喫した一日となりました。

編集子のひとりごと

63歳のHさんが若者に混じって、ルーペ片手に勉強されている姿には頭が下がります。(大西 記)