不定期刊行            286号  2009.1.2中信高校山岳部かわらばん     編集責任者 大西 浩

木曽高等学校定時制

高校山岳部の活性化を考える 3

自然が好きな子どもたちとともに

冒頭述べたように、世の軽佻浮薄の風潮の中で、「苦しく、汚く、きつい」思いをして山へ行くことに価値観を見出すことは、今の子どもたちには難しいことかもしれない。そんな中で、私は、山岳部生徒は激減したという印象を持っていたが、現実にはここ一五年ほどはそれほど大きく減少してはいないというのが実態である。加えて、私の中には生徒と日常的に触れる中で、「いわゆるアウトドアの活動に興味をもっている生徒が、潜在的にはかなりいるのではないか」という予感もある。

だから、私が部活動を指導する中では、こういった生徒たちを「アウトドア」の場面に引きだすことに腐心する。そして、一端そういう場に引き出しさえすれば、生徒たちは嬉々として活動に取り組む姿をこれまで目にしてきた。中学の部活では経験したことのない未知の世界の魅力を如何に子どもたちに伝えるかが私たち指導者には問われている。

多くの顧問が、そういった地道な活動をしている結果が生徒を引き止めていると思うが、その一例として、私の勤務している木曽高校定時制の例を挙げてみたい。本校は、全校生徒二七名という小規模な学校であるが、現在はそのうちの一四名の生徒が「アウトドア部」に所属している。様々な生徒たちを前にした私が本校で取り組んできたことは、「地域に残る自然に、生徒と一緒に触れることを考え、できるだけ多くの切り口を用意して提示する」ことである。そしてその楽しさを機会あるたびに語ってきた。顧問が、ほんのわずかの「ズク」を出すことで、生徒は本来持っている「自然が好き」という極めて自然な感情を呼び覚ますことができる。あとは自然自身のもつ教育力にまつ。

ただし、自然を相手にするという特性から、「@活動には時として危険が伴うということを理解し、すべてに参加するよう強制はしない。A参加すると決めた以上は行動に責任を持つ。B地域に住んでいる自分たちしか知らない場所や興味のわくことを出し合って、みんなでやれる活動を考えていく。」という基本的なルールおよび方針を最初に確認する。

テキスト ボックス: 自然の岩場でクライミングに興ずる
木曽高校の生徒たち(07.11)


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具体的な活動としては、沢登り(田立の滝や柿其渓谷)、登山、山スキー(御岳や乗鞍)、山菜取りやきのこ狩り、時には川下り、スノーシュー体験など生徒と話し合いながら多彩な活動を提案する。ハードな活動が難しい生徒には、アウトドアでの焼肉や地域再発見の街道歩き企画なども積極的に取り入れる。今、生徒たちにとって一番トレンディなのは、安全性を確保した自然の岩場でのクライミングである。これらの活動を行うためにはもちろん事前の下見やリサーチをしておくことは言うまでもない。

どんな活動であっても、参加した生徒は確実に自己を解放し、活動を通して一段階段を昇る。そして、生徒が生徒を通じてその素晴らしさを語り始めたらしめたものだ。生徒が生徒を呼び、活動は活性化する。

かつて、全日制に勤務していたときに私が心がけていたことは、これは前述の点にも関わるのだが、学校の中で活動をアピールすることだった。放課後、帰宅部の生徒の通り道で、美味そうなニオイを漂わせて、料理をつくって食べてみるとか、校舎の屋上から懸垂で降りたり、ユマーリングで登ったり、それが邪道だというならば、時にはひたすら荷物をかついでの一階から屋上までのボッカ訓練や学校の裏山までのランニング、天気図をとる練習などの正統派のトレーニングなどなど。「おもしろそうなことをやっている連中がいる」ということを、全校の生徒に知らせる努力を積極的にしたものである。こうすることが当の生徒たちにとっても、また「自然に興味をもっている」アウトドア予備軍の生徒にとっても山岳部活動への大きな動機付けになった。そもそも一カ月か二カ月に一回、山に行くだけでは、山岳部とは言えない。

編集子のひとりごと

2009年、新年あけましておめでとうございます。元旦の美ヶ原王ヶ頭のご来光です。午前7時、奥秩父の山からの日の出(右のピラミダルなピークは蓼科山)でした。北アルプス、乗鞍、御嶽や北信方面の眺望はもう一つでしたが、浅間山、荒船山等の顕著なピークを始めとして、奥秩父、八ヶ岳、南アルプス、中央アルプスの連山、さらには裾野を長く引く富士山もくっきりとその姿を見せてくれました。例年に比べ異様なほど、雪も少ない美ヶ原は、穏やかな表情をみせてくれました。暗い話題ばかりの世の中、素晴らしい日の出を拝みながら、本当に何とかしなければとの思いに駆られました。今年もまた「かわらばん」にお付き合いのほどよろしくお願いいたします。(大西記)