不定期刊行            287号  2009.1.5中信高校山岳部かわらばん     編集責任者 大西 浩

木曽高等学校定時制

高校山岳部の活性化を考える 4

顧問の熱意と相互の繋がりを

こういった日常活動を充実させるために不可欠な要素が、顧問の熱意と学校を超えた横の繋がりである。考えてみれば、ここ一五年間、中信地区の高校において山岳部が命脈を保ってくることができたのは、それぞれの学校において、顧問の先生方のこういった工夫や熱意があったからこそである。この地区には、クライミングの指導に長けている顧問、インターハイ常連監督、社会人山岳会に所属しているいわゆる「山や」、そして何より生徒のことを第一義に考える先生・・・。素晴らしい顧問たちが夢と情熱をもって、山岳部を盛り立てようと試みてきた。

テキスト ボックス: 大町高校・木曽高校合同
「焚き火&ビバーク合宿」(06.12)
幸い中信地区には、顧問の連繋をとれる場として「中信安全登山研究会」と「高体連登山専門部」がある。前者は、一九五四年一二月二九日に起きた県ヶ丘高校山岳部の岳沢での雪崩事故を契機に、「二度とこのような悲惨な事故を起こしてはならない」と、当時深志高校校長であった平林圭介氏が、山岳遭難防止を主とする委員会の設立を提唱(創設当時は「安全教育研究会」と呼称)し、その実現を見た。創設以来、半世紀以上にわたって毎年夏と冬の二回、各高校の顧問が、登山計画を持ち寄って検討会を開催してきたものである。一方、一九六四年には、県内の他地区に先駆けて「中信高体連」の中に「登山専門部」が設置された。(全県組織の長野県高体連登山専門部の創設は一九七〇年)その後は、この両者がタイアップしながら高校山岳部や学校登山で行なわれる登山の安全に寄与してきた。

中信安全登山研究会」では、「山岳部の活性化に繋げたい」との思いで、かつては行われていたが、長く中断していた顧問の自主的な研修会を二〇〇三年より復活させた。学校現場では、かつては「山岳部のような大変な部活動は、若い教師に顧問をさせておこう」という風潮もあったが、昨今は新規採用も減り、学校現場に若手がいないことも問題の一つとなっている。また「生き死に」にも関わり、専門的な技術や知識の必要な山岳部の顧問になり手がいないのも率直な事実である。かつ顧問が一人自分の学校だけで技術を研鑽する機会も場面もない。そうなると、部活動そのものも衰退するという悪循環を招く。

そこで、顧問が集まって登山技術を磨くことで、集団的に技術を上げようというわけだ。研修会では、技術の向上のほかに、顧問相互の人間関係を深めることも目的の一つに置いている。近年「フリークライミング」という新しい世界に魅力をもって取り組む生徒が増えている。場所の問題とも相俟ってこの世界こそ集団指導体制が求められているが、少しずつ学校の枠を越えて指導できる体制が整いつつある。これは一例だが、これに限らずここでの繋がりが、学校を越えた合同合宿や合同訓練となって、実を結び始めている。

おわりに

テキスト ボックス: 中信地区安全登山研究会顧問研修会でセルフレスキュー訓練『ザイル担架』をつくる(07.11)往時に比べれば確かに生徒は減少し、登山技術は低下したかもしれない。しかし、高校時代という多感な時期に、様々なアウトドア活動を体験させ、その魅力の一端に触れさせることができれば、生徒は、その先きっと自分で何かを選び取っていくに違いない。そういった素地を育てることが我々の使命であるとの確信をもって、広く「自然教育」という立場で、生徒と顧問がともに楽しめるような部活動に育てていければ、高校山岳部の将来は、まだまだ捨てたものではない。そのために、繰り返しになるが、我々顧問教師が、ちょっと「ズク」を出すことが求められている。

そして、こういった「自然教育」の観点は、単に山岳部という枠を越えて、閉塞状況にある現在の教育に対する大きな解決策でもあると私は信じている。

編集子のひとりごと

4回にわたって一つの試論を述べてきた。まあ改めて言うまでもないことの羅列だとは思うが、何かの刺激になればありがたい。私自身が共通一次のちょうど一年前の1978年、国立大学がまだ1期校、2期校に分れており、独自に大学入試をしていた最後の年に受験をしたということもあり、一つの分岐点にいたことを肌で感じてもいた。文化祭の位置を巡っての「職員会」と「生徒会」の議論なども思い出した。以後30年そんな節目をいくつも経験しながら、少しずつ時代に飲み込まれるように山岳部が変容してきたのは事実である。そうして下火だとか、長期凋落傾向だと言われて久しい高校山岳部だが、中信地区では今年度、筑摩高校アウトドア部が活動再開、明科高校では、丸山武志先生が顧問をしている地学部が活動の延長として、山岳部としての活動を新たに始めたという嬉しい話を聞いた。そんなわけで、先に編集を終えた「中信高校山岳部年報」には11校12課程の「山岳部」(昨年は9校10課程)から原稿が集まった。各校の原稿から部員数を拾ってみると、部員の数は男子72名、女子16名の合計88名を数えることができる。中には幽霊部員もいるかも知れないが、しかしこの中信地区だけでこれだけの数の「山岳部」が維持され、そこにこれだけの数の生徒が所属しているということは、「凄い」ことだと思う。しかし、だからといって諸手を挙げて喜べない事情があることは、これまで述べてきた通りである。だが、良くも悪くもこの背景に顧問の頑張りがあるのも、間違いないところだと思う。11月に行われた顧問の自主研修である「登山技術研修講習会」は、県外も含む中信以外の先生の参加や複数の生徒の参加もあって大盛況であった。山岳のメッカ、中信地区から顧問たちが、また生徒たち自身から「山」への取り組みを発信し続けることの意味は大きいと思う。今後もこの流れを途切れさせることなく続けて行きたいものだと思っている。(大西 記)