不定期刊行            289号  2009.1.15中信高校山岳部かわらばん     編集責任者 大西 浩

木曽高等学校定時制

群馬県高体連登山部の現状と課題 その2 対比地 昇 先生

四.競技(県総体・インターハイ・国体)のあり方と取り組み

テキスト ボックス: 写真 埼玉インターハイ
   新島学園 男子団体準優勝
    高女   女子団体十位
    前高   男子縦走十八位
角丸四角形吹き出し: 参加生徒感想文より抜粋
 「山での経験から『生きている』という実感を得られたような気がします。」
 登山はもともとは競技にはなじまないものですが、安全登山や自然保護等も関係して、必要悪として成り立っているという側面がありました。そこにスポーツクライミングが登場し、状況が大きく変化してきています。国体に踏査や縦走があったときは、県総体・インターハイとのつながりがありましたが、クライミングだけになってしまいました。高体連登山専門部においてもクライミングは登山の一つとしてリーダー養成研修会という形で選手の育成をし、今年で群馬県高校クライミング選手権も三回目を迎えるに至りました。クライミングの扱いについてはいろいろと意見の分かれるところがあり、話し合いが持ちにくいところでもありますが、安全登山に役立つための技術修得という意味での普及活動と、競技者育成という意味での普及活動という二つの意味を持って活動しています。自然の中での活動を中心にクライミング競技とどうつきあっていくか、県総体・インターハイをどう維持していくかが今後の課題になってくるものと思われます。

五.まとめ

テキスト ボックス: リーダー冬季講習会 尾瀬 高校山岳(登山)部顧問として、指導の原点にあるものは「山は人間形成の最高のフィールドである」という考えだと思います。若者についてのいろいろな事件を見聞きするたびに、自然の中での活動がもっとあれば違っていたのではないかと考えることがたびたびあります。岩場、鎖場等の危険箇所を通過し、山頂に着いたときの爽快感は生きる力になります。何日も重い荷物を背負って寝食を共にした仲間の結びつきは強いものがあります。インターハイやクライミング大会で上位に入賞したときも、目標を達成したという大きな喜びがあるでしょう。夢を大きく持ち、その中から一流の登山家が出るのも楽しみです。いろいろ問題点ということで指摘をしてきましたが、我々が取り組んでいる登山という活動は、高校教育の中で大事にしていきたいものの一つだと思っています。

刺激的な時間・・・「平山ユージ」スライドショー

1月10日(土)、松本市のカモシカスポーツにおいて、「平山ユージスライドショー」が行われた。午後2時、店内の二階に設けられた会場に100人の観客が待ち受ける中、店内の人工壁を攀じってユージさんが登場するというサプライズ、最初から歓声があがった。

話の内容は昨年の10月に行ない、世界新記録を樹立したエルキャピタンの「スピードクライミング」の話が中心だった。「スピード」は、普通のフリークライミングとは異なり、プロテクションを掴むことも許容されるなど、何を使っても構わないという登り方であり、邪道という側面がないでもないが、ユージ氏が、なぜこの登攀に取り組んだかという動機が語られた。目一杯つぎ込んでしまって、ついついやりすぎてしまい、指を痛めてしまっていたさなかに、パートナーのハンス・フローリンからの誘いがあった。肩肘はらずに気分を変えてみようかなと思い立ったという。突っ走るだけではないゆとりの姿勢が重要、当たり前のことながら、ユージさんがいうと、ストンと胸に落ちてくる。話が佳境にはいってくると、実際に登っているときの様子のスライドなどが次々と映され、臨場感たっぷりの話術に引き込まれる。ユージさんの温かく気さくな人柄も大きな魅力的である。

高度差1100mのエルキャピタンが、40年前に初めて登られたときは48日を要していたという。それを今回ユージ氏とハンス氏は「2時間37分05秒」という考えられないスピードで登ったという。この登攀の成功の一番の秘訣は、なんといってもパートナーのハンス・フローリンとの信頼関係とのことだった。時には同時登攀をしながら、というある意味リスクをおった登攀において、「ハンスとでなければできない、ハンスと二人だからできた」と、絶対の信頼をおいているハンスとの友情の話は示唆的であった。

後半の一時間は質問タイム、参加者の疑問に気軽に答えてくれた。自らの技術力を少しずつ向上させながら恐怖感を克服していく具体的な話、40歳を迎えたユージさんの夢はまだまだとぎれることがない。世界一流の平山は人間性の上でも超一流だと言うことを感じさせる刺激的な3時間はあっという間に過ぎた。

編集子のひとりごと

群馬県高体連の@「全員で取り組み、全員で指導」A「一人一人を大切に」B「尾瀬からヒマラヤへ」というのは、原点だと思う。対比地先生の分析と提言、群馬高体連が取り組んできた実践は傾聴に値する。減少しているとはいえ、群馬ではまだ女子が9校、男子は30校で部活動が続いているという。群馬高体連登山部の底力を教えてもらったような気がした。やはり根は同じ、基本的な活動を地道に積み重ねていくことこそ必要だなと再認識させられたことだ。こういった県を越えた情報は貴重だ。(大西 記)