不定期刊行 第290号 2009.1.27中信高校山岳部かわらばん 編集責任者 大西 浩
木曽高等学校定時制
雪崩を科学する
25、26の両日山岳総合センターが主催した講師講習会でのカリキュラム(柳澤昭夫講師による)を掲載する。今回は天候と時間の関係でこれらすべてができたわけではないが、行ったそれぞれの項目は今年も私に「雪崩をどう科学し、どう向き合っていったらいいのか」を示す指針を与えてくれた。研修は熱心かつ真剣に行われ、お互いに議論を交わしながら、「知恵の共有」が進んだ。このカリキュラムのそれぞれの項目は、「雪の斜面にはいるにあたっての基礎的な留意事項」と言い換えることもできるので、今回のかわらばんでは項目的ではあるが、敢えて掲げておきたい。各自参考にされたい。
T雪崩に関する研修内容
1 雪庇
@観察
A構造(片持ち梁の構造とその崩壊、空洞)
B雪温勾配
C雪庇の雪(吹き溜まり雪の観察、基盤となる吹き溜まり雪質の強度)
D風と降雪、吹き溜まり雪の危険について考える
2 鹿島槍荒沢奥壁を観察する
@雪崩の発生点、流路、停止点について推察する
A地形と日射、輻射量、濡れザラメ雪崩について考察する
B荒沢奥壁登攀アプローチの雪崩の危険について考察する
C荒天(吹雪など)時の対策について考察する
D地形と上載積雪が雪崩の危険を考える上で最も重要である
E自然発生雪崩の要因について考える
F地形とストレスの集中点について考察する
G湿雪雪崩、乾雪雪崩の流路、直進性、規模について考察する
3 弱層テストと積雪層について観察する
@様々なテストについて(目的、意義など)
A登山者の行動が弱層にどのような影響を及ぼすか考察する(ルッチブロックテストなど)
B気温、雪温の変化が弱層に及ぼす影響について考察する
C弱層とその形成過程について考える
4 上載積雪−弱層−下層積雪との関連を考察する
@温度勾配を観測し各層のクリープについて考える
A上載積雪の質量を考える
B上載積雪と地形との関連を考える(雪崩は上載積雪の質量と弱層との関係で発生する)
C露岩、樹木、薮などのアンカー機能について
D積雪が不安定になる要因(クリープ、弱層の発達、日射の影響、気温と雪温の変化、積雪の増加、降雪時の状況等)について考える
5 降雪中の雪崩について考える
@上載積雪の増加と駆動力の増加について
A視界の悪化と雪崩の危険について
B行動力の低下と雪崩の危険
6 降雪後の雪崩について考える
@日向と日陰、雪質の変化と雪崩について考察する
A降雪後の行動について考える
B行動中雪崩の危険を予感したらどうするか
U雪崩埋没者の捜索と救助に関する研修内容
1 捜索方法(数百米以上の雪崩を仮想して)
@迅速な救助のための留意点
埋没点の推測
荒捜索と綿密な捜索
呼びかけと反応のキャッチ
遺失物と捜索
2 救出と手当
@迅速な掘り出し方法
A掘り出し後の応急手当
B緊急蘇生
C低体温症の手当
Dその他の傷病の手当(坐滅症候群を含む)
3 安全の確保
@二次雪崩の予測と対策、どこまで捜索救助が出来るだろうか
ア晴天時の対策
イ降雪時の対策
A救出者の安全確保
4 搬送方法と搬送における問題点と留意事項
@シート搬送
A芝橇搬送
B担架搬送
Cスノーボート搬送
5 埋没体験
編集子のひとりごと
今回の「講師講習会」の参加者は36名であったが、このうちの約半数はセンターのリーダーコース受講生であり、長山協関係者は10人あまり。長山協の遭対、指導の両委員会も共催したにも関わらず長山協会員の参加は少なかった。しかも参加した顔ぶれは、夏の講師講習会とほとんど同じ。ここ数年同じような傾向が見られる。高校山岳部ばかりでなく社会人山岳会も、ちょっと危機的な状況と言えはしないだろうか。(大西記)