不定期刊行            291号  2009.1.29中信高校山岳部かわらばん     編集責任者 大西 浩

木曽高等学校定時制

雪崩の予測はできるか・・・講師講習会ディスカッションから

290号で紹介した講師講習会の中身について感じたことを紹介したい。昼間は実際の山の中で、前号で紹介したカリキュラムに沿って実戦的な講習会が行われた。しかし、講習会はそれだけではない。初日センター帰着後は、直ちに主任講師の柳澤さんの講義が行われた。さらに食事の後も深夜まで、参加者によるディスカッションを通じて、柳澤さんから出された課題を深めた。与えられた課題は多岐に渡ったが、今回のディスカッションで話された部分について小生なりのまとめをしてみたい。

@「雪崩の予測はできるか。できないか。その理由は何か。」をめぐって

結論的にいえば、絶対に雪崩が発生しないとか、発生するとかの予測は難しいということに尽きるだろう。なぜなら、常に雪の状態や斜面の状況は変化するものであり、同じ雪面ができることはあり得ないからだ。であるならば、雪崩事故を回避するために我々が出来る最善のことは雪のある山には入らないということだ。しかし、現実に我々は雪の山に踏み込む。なぜ我々は、雪崩が100%起こらないという予測もないのに、雪山に踏み込むことができるのだろうか。

自分の入っている間は起こらない、起こってほしくないという希望的観測だけで入り込んでいくのか。もちろんそういう側面もある。しかし、その希望的観測にしてもまったくの当てずっぽうではないはずだ。それが希望的観測に過ぎないとしても、少なくとも私は80%の確率で起こらないと思えなければ、踏み込む勇気は持たない。

雪崩が起こるか起こらないかということは、予測はできなくとも、経験を積み重ねることで、その危険度を少なくしていくことはできるのではないだろうか。経験を積んで感覚を研ぎ澄ましていくしかない。そして、そのためには、過去の天候の履歴など目の前にある情報をいかに捉えるかも重要な要素である。そういったことを総合的に判断し、目の前の雪の斜面に接することが予測の確率を高めることになるのだろう。

A弱層テストは、どんな目的でするか、テストで何を捉えることができるか。

雪崩の講習会と言えば、まず「弱層を形成する雪質」「弱層テスト」がまず語られる。しかしそのことを知るだけで知ったような気になってしまうことは、陥穽にはまることになるのではないだろうか。

私自身実際の入山の中で、弱層テストをしているかと言えば、していない場合が多い。そして、これは今回参加した仲間の多くにも共通していることだった。この日の日中の講習会の中で行われたスノーピットを掘っての観察では、わずか数10m程離れた場所であっても、日射や斜度が違えば雪質はもちろん弱層などの形成も全く違っていることも目にしている。そんな状況の中、10m進むごとに弱層テストをやっていくわけにも行くまい。しかし、だからといって我々は、雪がどういう状態になっているか全く知らないで山に入っているということでもない。

我々は山へはいるにあたっては、様々な形で情報を得ている。斜面の状態、現在の天候や気温、入山前の天候の履歴、スキーで雪面に踏み込んだ感覚、ストックやピッケルを雪面に突いたときの感覚など。こうした様々なことから、実際には弱層テストはしていなくても、情報を掴んでいる。それは科学的とは言えないかも知れない。しかしその科学的ではない感覚は、だからといって切って捨てるべきではない。むしろ経験とともに鋭くなった「知恵」は重要な判断を与えてくれるものである。

その上で誤解を恐れずに、弱層テストのどこに意味を見いだすかと言えば、注意力喚起とか意識を高める効果といえるのではないだろうか。そしてそれは、経験による五感の感覚を研ぎ澄まし、センサーの感度をあげることと密接にリンクしてより重要な情報となり得る。

Bこれらの議論のあと、最も重要な視点として柳澤さんから提起されたこと

最後にリスクマネジメントの観点で、柳澤さんからパーティ内での意思を共有することの重要性とリーダーシップのあり方についても言及があったことを述べておきたい。

長山協「山のセミナー」にご参加下さい

「かわらばん」で紹介しようと思っていながら、時期を逸してしまった観もあるが、今週末31日、1日と恒例の「長山協山のセミナー」が開催される。このセミナーは、以前は「海外セミナー」という名称で、国際部が単独で行っていたものであるが、数年前から事業部が統括し、国際部、医科学委員会、自然保護委員会が共同で企画する山の学習会である。今日の明日というような連絡で恐縮だが、天候も悪いことが予想される今週末、時には山の話題を肴に学習会は如何でしょう?会場は、山岳総合センター、参加費は全日程参加者は懇親会宿泊費込みで4000円、日帰りは500円です。

2日間にわたって行われる内容は以下の通りです

セミナー1「山の医学」医科学委員会《1月31日(土)14:45〜16:00》

@山の医学(仮題) 講師 飯田泰人氏(長山協医科学委員長)

セミナー2「身近な自然保護」自然保護委員会《1月31日(土)16:30〜18:00》

@鹿の高山における食害調査講師 杉田浩康氏(長山協自然保護委員長)

A生物多様性とは?〜野生動物からの考える〜講師 長野県自然環境保全研究所 岸本亮輔氏

セミナー3「クロニクル進行状況」事業部《1月31日(土)18:00〜18:30》

セミナー4「海外登山情報と報告」国際部 《2月1日(日)9:00〜12:00》

@台湾の山岳紹介と登山事情 講師 林哲全氏(中華民国山岳協会情報部長)

A新疆ウイグル自治区の山と自然 講師 ヌル・マイマイティ氏(新疆出身ツアーコンダクター)

B海外登山報告 ネパール、アラスカ、韓国、台湾、中国ほか

Cネパール・エベレスト山群記念トレッキング計画 講師 田村宣紀氏(県自然保護連盟副会長)

編集子のひとりごと

17日、18日に行われた信高山岳会の新年会に新疆のヌルさんこと「タシ・ヌル・マイマイティ」氏(現在は東京狛江に在住)を招いた。新疆の山のこと、旅のこと、カシタシのこと・・・ゆっくり一晩語り明かした。ヌルさんは、我々信高山岳会が1999年から3年間かけて初登頂を果たした「セリッククラムムスターグ(カシタシ主峰)」の登山以来親しくお付き合いいただいている。その「ヌルさん」が、明日からの長山協セミナーにも来て、新疆の山のことを話してくれることになっている。先々週のヌルさんとの話以来、私の中で新たな夢が膨らみ始めた。(大西記)