不定期刊行            295号  2009.2.19中信高校山岳部かわらばん     編集責任者 大西 浩

木曽高等学校定時制

次世代育成のための登山・自然体験を長野でも

2月14日、15日と日山協の2つの会議に出席するため、上京した。14日は「日山協第1回ジュニア・普及情報懇談会」。全国から35名が参加し、子どもたちに対する登山教室などをどう展開するかを交流しあった。長野県では現在こういった取り組みは、クライミングでは行われているが、「登山一般」「自然体験」という面では立ち後れている。昨年秋の「長山協キャンプ」の際にそこで焚き火を囲んで、長山協の西田副会長、小林事務局長、傘木指導委員会総務らと話をしている中で、子どもたちに「自然」に親しむことを伝えたいということで話が盛り上がった。その後、傘木氏を中心に何とかしたいと動き出したもののなかなか具体策が見えない。日山協から広島などの実践を紹介され、HPなどで見てはいたものの、イメージがなかなかつかめないでいた。そんな中での開催に、何か得るものがあればと傘木氏と二人で参加したというわけである。

懇談会では3本の実践報告がなされた。一番目は、北海道岳連の小野倫夫氏による少年少女登山教室の報告。小野さんは、僕が高体連全国常任をしていたとき、ともに常任を務めた旧知の仲でもあるのだが、今は退職され北海道岳連の理事長をされている。北海道では2003年度より年に一回、一泊二日の日程で日高町の廃校施設を転用した登山研修所で、「座学」、「人工壁のクライミング体験」、「ナイフを使っての体験」、「日帰り登山」などを組み込んだ少年少女登山教室を開いている。参加者(12〜20人くらい)と同数の指導者できめ細やかに行っているが、継続性を高めるために年1回の開催を複数回にと、少しでも回数を増やしたいが、日程調整が難しいとのことだった。

次の報告は、神奈川岳連のジュニア担当の山下眞一氏から行われた。神奈川では、地元の山岳会と高体連がタイアップして、丹沢の南(秦野市)北(藤野町)でそれぞれ一回ずつ実施しているが、全県に広げるのは難しい。クライミング中心になってしまってはいるが、沢登りやカレー作りなど工夫して楽しさを体験してもらおうと行っている。小学生は集まるが、中学生が集まってこないことや、北海道と同様に、年に一回限りで、定着していかないのが課題であるということだった。

第3の報告は、広島岳連の「わんぱく登山部」。報告者は、同プログラムのディレクターの今村みずほ氏。この企画は、広島岳連の事業部の取り組みとして、3年前から行っている。この「わんぱく登山部」のコンセプトは、山が大好きな大人たちが子どもたちを山に連れて行くことを通して、本来子どもの日常生活に存在していた「山遊び」の復活をすること、日常と自然を地続きでとらえさせることを通じて、子どもたちに「楽しい」と「好き」の原体験をさせたいというものである。このコンセプトに基づき、年間の活動として自然体験を「クラブ活動」にして子どもの日常に組み込んでみるというものだった。具体的には、対象は小3から小6までに限定し、年間9回のプログラムを組んで、年会費9万円で年度当初に新聞広告でクラブ員を募集する。家から出て、一日遊んで帰ってくるという日帰り登山を基本とし、一年間の中でステップアップするようなカリキュラムを構成する。4月〜2月までにハイキング、ブナ林満喫、沢遊び、伯耆大山で縦走にチャレンジ、親子登山、雪遊び、ウインターキャンプなど多彩な内容で構成されている。最初は20名×2班で行っていたが、今年度は16名で展開し、指導者は岳連所属の登山愛好家で組織している。このクラブの効果は計り知れないが、一例を挙げれば、当初は「山は子どもだけでいいです」と言っていた親が毎回帰ってきては「今日も山は楽しかった」という子どものことばで刺激を受けて親子登山に参加したり、会話が弾んだりする。その親子登山に参加するに当って、道具のことをおじいちゃんやおばあちゃん(おそるべし中高年登山!)に聞いてみるというように思いがけない家族への広がりがあったりするなどいろいろな展開があるということだった。

それぞれの道県が少しずつ動き出しているのを実際に聞いてみて、イメージが膨らんだ。長山協でも来年度「見る前に跳べ」の精神でできることから始めようと傘木氏を中心に動き始めてもいる。ぜひ読者の皆さんにも一口関わっていただきたいと思っている。

日山協の高体連への取り組み二つ

15日は日山協の評議員会であった。前日の会議にも見られるように、日山協としても高体連を含むジュニアの育成に本腰を入れ始めている。この会議の話題の中で、高体連に関わる部分を二つ紹介する。

一つは、日山協が毎月発行している「登山月報」を来年度から900部増刷して高体連加盟全高校に配布したいというもの。ちなみに、900というのは全国高体連の登山専門部の加盟校数とのことである。そして今一つは、高体連の「選抜クライミング大会」が開催される方向で話が進んでいるというもの。この大会については、今年の12月に埼玉県加須市で第1回大会を開催の方向で進んでおり、リード競技のみ、各県3名+αの枠があり、高体連の要望で学校対抗の意味合いが入りそうとのことだ。しかし、実際問題として長野県から選手を出すとなるとどんな選抜方法をすればいいのか?すでに何度も大会を行ってきている近畿や関東はともかく、高体連にボールを投げられても本県を始めとまどうところも出てきそうな気もする。ちょっとそのあたりは気になった。「高体連がクライミングにどう関わっていくか」という課題は、実は私が全国常任をしていたころにも話題に上っており、当時「クライミング小委員会」というものが作られて、私自身、そのメンバーでもあった。岳連や協会の中での国体委員会やジュニア委員会との絡みや地域による温度差(これは今でもかなりあるものと思う)もあって結構難しい議論が交わされたことを思い出す。ともかく一歩先へ進んだことは確かである。今後どう推移していくか、気になるところではある。

編集子のひとりごと

先週上京した折、長山協と長野県自然保護連盟が共催して今春行う「ネパールトレッキング」のことで山と渓谷社の粟津社長と話をしてきた。その席上、ジュニア層の育成ということで少し話をすることができた。岳人誌でも今、「高校山岳部の仲間たち」が毎号掲載されているが、山と渓谷誌でも若者への何らかのアプローチをしたいというお考えをお持ちのようであった。その第1弾として新年度から各県の一校に一年間「山と渓谷」を一冊無料で贈呈するというプロジェクトが行われることは、昨年末専門委員長の久根さんからその旨連絡があった。そして長野では塩尻志学館が決定した。期せずして様々なところで次世代のことが語られ始めている。我等現場の者も頑張らねば。(大西記)