不定期刊行            304号  2009.07.01中信高校山岳部かわらばん     編集責任者 大西 浩

木曽高等学校定時制

「高校生に夢を!」 その2

「前号で今夏新疆へ偵察に出かける。」と書いた。実は本当のところは出かける予定を進めていると書くべきところである。というのは、現在「登山申請」しているところであるが、この一帯が未解放地区でありその許可がまだ確実に下りていないからである。正式な許可は行く直前までずれ込みそうだが、これもまた未踏峰なるが故のこと。ジタバタしてもしかたがないので、果報が届いたときに慌てないよう準備だけは進めているというわけだ。

今回の山は「アクサイ(阿克沙衣)峰」という。「アクサイ」はウイグル語だが、アクは「白」、サイは「川」を意味するという。中国の地図では標高6770m、旧ソ連製の地図では6851mという記載がある。しかし、長山協がかつて作成に関わった「中国山峰図」にはなぜか見られない。いわば幻の山。カシュガルとホータンのほぼ中間に位置するカルガリク(中国語では「葉城」)から新蔵公路を500kmほど走った場所にあるという。かつて僕が登った「カシタシ」よりは南西に寄った地点である。ヌルさんの情報では、1998年に岩手医科大学山岳会が偵察に入ったが、その後登山活動は行われていないという。写真を見る限り、登山意欲をそそられるピラミダルな秀峰である。

信高山岳会では、この山への挑戦をする年を2011年とした。それはこの年が「信高山岳会」創立30周年にあたることからだ。というか、30周年の記念行事に相応しい山を探していたら、この山が見つかったというべきか?どちらが卵でどちらが鶏かというのは、いつでも難しい問題だが、とにかくチャンスは前髪で掴まねばならぬ。今年の信高山岳会の新年会で、30周年の事業がスタートしていたことと、ヌルさんが日本へ来ていたことがうまくリンクしてここまでとんとん拍子に進んできた。加えて、2011年は長山協の50周年にもあたり、事業を進めるためには「冠」をつけて応援してくれるということも好条件である。

しかし、写真だけでは登山ルートを見極められない。崑崙の未踏峰登山は、これまでの経験から言っても、偵察を行わないと非常に効率が悪い。加えて、信高山岳会の構想の中には、この登山と同時展開で別働隊としての「高校生トレッキング」を出したいという想定もある。過去の訪中隊の経験からも、6月に行われる県大会での隊員募集とそれに続く一年間のチームワーク作り、高所順応の学習や技術訓練は必要と考えている。そう考えたとき、2011年に実施するために逆算してくると、来年夏の偵察では高校生を募集しにくいこともあり、本隊派遣2年前の今年夏の偵察と相成ったわけである。

だから今回の偵察は、単に未踏峰登頂への足がかりをつけてくるだけではなく、高校生トレッキングの可能性も探ってくるという重要な意味もあわせもっている。責任は重大である。そこで、偵察隊は、3人で組織することにした。行きがかり上、僕がとりまとめ役を務めることになったが、強力なサポートとして風越高校の高橋清さんを副隊長に、県高体連登山専門部の現役専門委員長の久根敏さんを秘書長にお願いすることができた。高橋さんとは初任の長姫で、久根さんとは2校目の丸子でともに同じ学年を担任した旧知の間柄でもあり、2000年の「セリッククラムムスターグ(カシタシ主峰)」の遠征仲間でもある。

すでに県教委、県高体連、長山協、また信濃毎日新聞など関係諸機関(団体)にも挨拶をすませ、それぞれ後援の内諾もいただいている。航空券の手配も終え、食糧、装備などの準備もほぼ整い始めている。一方で、今回はカルギリクを出たあとは、いきなり5000m近い峠を越えることもあり、体調面が懸念されるので出発直前の7月11〜12日に富士山合宿を組んで高所順応をしていくことにもなっている。7月25日発、8月8日帰国の予定で、日程15日間という強行軍ではあるが、行くからにはできる限りの成果を持ち帰り、再来年の登山とトレッキングにつなげたい。

あとは、「登山申請」が許可されるのを待つばかりである。

登山研修所(旧文登研)研修会雑感

文登研の名で親しまれていた「文部科学省登山研修所」が、今年度から国立独立行政法人日本スポーツ振興センター「国立登山研修所」へと名称が変わった。その研修所の「安全登山普及指導者中央研修会」(名前が仰々しいですね?!)が、今週末行われた。今回の研修は「読図プランニング研修コース」と「登攀技術研修コース」の2コースに分れており、小生も「読図…」の講師を依頼されて参加してきた。中高年登山者の増加など山岳を取り巻く社会情勢の変化などとも相俟って、「登山研」でも国費を使う以上その研修内容に工夫をするなどを求められているということもある中、一泊二日の短期で、今年初めて開設された研修会でもある。「読図」コースには全国から高体連関係者も5名参加(登攀には3名)されていたが、中には旧知の石川県高体連の深田先生もいるなどプレッシャーも感じながら(汗…)、一緒に講師を務めた新潟の新保先生と2人でこの5人の研修を担当した。

研修には関係ないが、研修会の参加について感じたことを一言。この研修会の通知は県内の山岳部顧問には県教委から通知が届いているはず(現に僕のところにも届いた)だが、長野県では話題にもならない。今回参加した各県の先生方に聞くと、県高体連登山専門部から行って来いと言われたとか、高体連を代表して来たという方が多かった。「登山研」の研修は、得たことを山岳会や地元の高体連で伝達をして広く普及していくことにも意味があり、その本来的な形がいくつかの県ではまだ残っていることを知らされた。ここには長野とは違って他県では、「高体連加盟校」「加盟校顧問」をきちんと掌握しているという事情もあるようだ。この辺がアバウトなのは我が長野の良さでもあるが、山岳部の地盤沈下を食い止めるためにはこういった組織化も必要なのかも知れない。ちなみに石川県からは深田さんに加え「登攀…」に出村先生が参加されていた。

今回の研修と同内容の研修会が11月14日〜15日の日程で今年度はもう一度計画されている。興味がおありの方は、参加されてはいかがだろう。今回もそうだったが「登山研」の研修は、研修生2人か3人に講師1人という非常にきめ細やかな研修となっている。実際、今回小生が直接担当した方も二人、そのうちのお一方は、今年初めて山岳部の顧問になったという全くの初心者、もう一方は20年来顧問をしてきた方であった。経験のあるなしに関わらず、研修したいという気持ちさえあれば、何でも勉強になる。講師という立場ではあったが、僕自身も他の講師の方々に教えられたり、他県の高体連の実情を知ることができたりと貴重な経験を積ませてもらえた。