不定期刊行            320号  2009.10.01中信高校山岳部かわらばん     編集責任者 大西 浩

木曽高等学校定時制

09中高年安全登山指導者講習会〔中部地区〕 その1

話を聞いてから丸二年にわたって準備してきた「中高年安全登山指導者講習会〔中部地区〕」は、天候にも恵まれて25日から27日の全日程を無事終了した。この講習会は、1989(平成元)年10月の立山連峰真砂岳での中高年グループ8名の遭難死亡事故を契機に、当時増えつつあった「中高年登山」の安全を期して、文登研(当時)が中心になって翌1990年から全国を3ブロックに分け、各都道府県持ち回りで継続して行ってきた講習会である。主催は国立登山研修所(今年から実態と名称が変更)と日本山岳協会、該当都道府県教育委員会の3者であり、当該県の山岳協会(連盟)が主管して行うものである。長野県では1993年以来16年ぶりの開催である。

 この講習会を主管するに当たって、昨年度小生は長山協の理事長として、滋賀県に視察に行った。そこで、考えたことは、単なる名山のピークハントに終わらない文字通りの「講習会」をするにはどうすればよいかということであった。というのも、昨年講習会の中で、「来年の長野ではどんな山に登らせてもらえるのですか?」「長野にはいろんな山があるから期待していますよ。」などという発言も耳にしていたからだ。山岳県である長野へ来る以上、「山」への期待が大きいことは容易に想像できる。だが、僕らは講習会である以上「どんな山に登るのか」ではなく「何を講習するのか」に力点をおいて、計画を進めてきた。もちろん、この考えの基本は、文登研の専門職から所長、そして現在は長山協の会長として1990年の最初の講習会から関わってきた柳澤昭夫さんの考え方も大きい。もちろん昨年の滋賀県から学んだことも講義を含めたくさんあったが、実際に長野でやるとなれば自前の研修施設である山岳総合センターをベースにするというのはすぐに決まった。しかし、センターをベースにすれば勢い山域は北アルプスになり、実際に山に登ってということになれば、登るだけで終わってしまい講習などできるはずもない。それで選んだフィールドがここ数年センターの講習会で使っている「七倉沢」であった。

 今年は7月に、この講習会のそもそものきっかけとなった立山の事故にも匹敵する大事故が「トムラウシ」で発生した。もちろん十把一絡げで言うのは、乱暴だと承知の上だが、20年経っても案外基本的な一番大事なところは変わっていないのではないかと思わせるような事故だった。

さて、肝心の講習会だが、参加者は9県から32名。4名ずつで全体を8班構成として、初日と3日目は山岳総合センター、初日の夜からの実技は七倉沢、2日目実技終了後は大町温泉郷黒部観光ホテルで行った。講義については「登山の運動生理学」の著者である鹿屋体育大学の山本正嘉氏、長山協から柳澤昭夫、田村宣紀の両氏、それに鹿教湯病院リハビリセンター長で日本登山医学会理事長の小林俊夫氏という豪華なメンバーをお願いすることができた。

山本先生には昨年の滋賀県同様、登山に必要な体力トレーニングとそれを計るための指標の試案を提示していただき、それにそって実際に体力テストも行った。これは昨年に引き続き参加者には好評であった。先生自身も今回のデータも含め、分析を加えながら、このテストをより完成度の高いものにしていきたいとのお考えをお持ちである。そういう意味では研究途上ではあるが、特に最近増えているツァーにおいて、旅行と登山のボーダーが曖昧になっている「中高年登山初心者」はもちろん、僕らが日々接している高校生などにも登山には「体力」が必要だという認識を持たせるには最適な「テスト」である。テストの中で敏捷性をはかる「ステッピングテスト」以外は、どこでもだれでも簡単にできるのが何よりいい。そして、このテストの結果は、「トレーニング」に結びつけていく客観的な目標となりうる点がもっといい。テストの詳細については、次号のかわらばんで紹介したい。

小林先生の話は「高山病」と「山での突然死」をめぐる話であった。ほとんどが日帰り登山である富士山においては「急性高山病」は起こるが「高地肺水腫」は起こらないということ。いわゆる「急性高山病」と「高地肺水腫」の違い、2600mから2700mに一泊することで、急性高山病が治る人と高地肺水腫になる人がいること、そしてそれには遺伝的要素が絡んでいることなど、2500m以上の山を有する長野県での登山においての留意点に触れながら、実際のデータと臨床例に基づいた貴重な話であった。そちらに話が集中して「突然死」の話に十分時間が割けなかったのは残念だったが、これはまた別の機会にお願いしよう。先生は3日間フル日程で帯同ドクターとしても参加して下さったので、長山協としても太いパイプができたことも大きな収穫であった。

新潟国体山岳競技壮行会

 27日、今週末からはじまる新潟国体山岳競技の壮行会を行った。既に報告しているように、今年の長野県チームは10年ぶりに全種別出場である。しかも、少年男子は昨年に続いて大いに期待できる布陣、深志高校の中嶋兄弟であり、成年男子も少年の時代から大町高校の山岳部で活躍した笠原、橋本の両選手、成年女子も白馬高時代北信越国体に出場していた大野選手など高校関係者として楽しみもある。中野立志館、長野工業の少年女子チームもここへ来て調子があがってきたとのことだ。監督も少年は小沼、村主の両氏、成年女子は今滝氏とこれまた高校関係者である。社会人のAWの橋爪監督、GDMの宮崎選手ともども全員が一丸となっての好成績を期待したい。壮行会では、山岳会関係者約20名が集まり選手の健闘を祈ると、選手たちは一人一人自分のことばでそれぞれの思いを述べた。大会は3日(土)から5日(月)まで上越市安塚で行われる。長野からは日帰りも可能な上、選手たちの活躍も予想される。国体ならではの2選手が同時に登攀するというおもしろさもある。ぜひ、応援に行ってみてはいかがでしょうか?