2003年度 長野県高等学校総合体育大会 

第32回登山競技大会  講評

 

審査員長 久根  敏

 

 八ヶ岳南端の西岳,編笠山をコースに県下19校130余名の参加による県大会が無事終わりました。最終日は雨に降られたものの,競技2日目までは緑鮮やかな山々を堪能しつつ競技できたのではないかと思います。

さて,登山競技は,日頃の活動の成果がそのまま反映される点では他競技大会と同じですが,登山という天候や体調によっては命に関わる状況にもなりうる活動を競技している点で,他競技とは大きく異なります。その点を改めて意識し,安全で確実な山行のために必要な要素は何かを考えながら,審査員会での意見・感想などをもとに本大会を振り返ってみました。

 

1.体力 (35点)

A.全体の体力(20点)

規定重量を男子40kg,女子32kgとし,スタートからゴールまでの全コース規定時間を男子8時間,女子8時間30分としました。規定時間に遅れた場合は,3分ごとに1点減点と設定しました。ほとんどのチームが規定時間内にゴールでき,全体としては,余裕ある行動ができたと思います。ただし,全体のペース配分にむらがあり,下りに時間のかかるチームもありました。体力にもよりますが,全行程を考慮した計画的な行動を心がけてください。

B.通過時間指定区間体力(15点)

 西岳登り1920m地点から山頂までの標高差約480mの区間を男子40分,女子60分の制限時間とし,30秒遅れるごとに0.5点減点としました。この区間では,敢えて厳しい時間設定として,タイムを競うことによる体力の審査を行いました。普段の山行では,まずしないことですが,ある程度のスピードを持った登山をするためには,チーム内で担荷重量の配分を考慮したり,4人の励まし合いなどの精神的な部分も重要です。

山行を安全に楽しむために一番必要なことは,体力です。余裕ある行動をするためにも,一層の体力トレーニングを期待します。

 

2.歩行技術 (15点)

  コース内5地点にて,歩行バランス,チームワーク,パッキングの状態,服装を審査しました。

     歩行バランスについては,全地点を通じて山を歩き慣れているチームとそうでないチームが明確な差となって表れていました。特に編笠山岩場や急な下りでは体力に余裕があるチームほどバランスよく歩行できていました。

     チームワークについては,概ね良好でしたが,チーム内の間隔が空きすぎるチームがありました。また,足場の悪い地点では,先頭の後続への声かけがあまり見られませんでした。必要に応じて先頭や最後尾者の明確な指示がチームワークの向上につながります。

     パッキングについては,雨ぶたのずれや閉め忘れがありました。ザック外に物をつけるチームはありませんでしたが,必要以上に長いザックのひもは,今後気をつけたいところです。

     服装については,暑さのため帽子を被らない人がかなりいました。頭部保護と熱中症対策のために行動中は必ず着用してください。また,風で飛ばされない工夫も必要です。

     半袖シャツ,タオル・ひも類の首へのぶらさげなどいずれも事故予防の点から避けるべきです。

 

3.地形 (15点)

・ 明確な地形変化が見られる地点確認は概ね各チームともできていました。しかし,登りに比べ,下りの地点確認の不正確さが目立ちました。

     地点確認は,登山の基本です。日頃から地形図で地点確認する山行を繰り返すことにより,歩行距離や地形変化の様子などを感覚として身につけてください。

 

4.装備 (10点)

  共同装備[医薬品のうち湿布薬,ツェルト,火器・コッフェル・ガス],個人装備[ヘッドランプ,コンパス,時計,計画書,マッチまたはライター,ナイフ]の9点,および編笠山への装備携行を審査しました。いずれも,緊急時に対処する最も基本的な装備品であることを意識してください。

・ 火器・コッフェル・ガスは3点揃ってはじめて湯が沸かせます。また,いかなる山行でも,ツェルトは必携です。

     ヘッドランプは,「絶縁,予備電池・予備電球」も確認しました。不測の事態に備えて予備品を携行することが必要です。なお,LEDヘッドランプの予備電球は問いませんでした。

     今回は岩場通過による捻挫などが想定されたため,特に医薬品のうち,湿布薬の所持を確認しました。医薬品については,計画書への記載とともに,中身の確認(使用方法,使用期限など)も事前に行い,傷病時に対する備えを怠らないようにしてください。

     青年小屋〜編笠山往復については,標高差150mと岩場通過を考慮すると,個人装備を全く持たない行動は,大変危険です。天候の急変や非常時を想定した装備は,常に携行する必要があります。

 

5.生活技術 (10点 設営5点 炊事5点)

A.設営

強風雨を想定して,安全に素早く設営できることを確認するため,手際の良さ,ザック雨ふた・袋物の処理・ペグ・張り綱の適切さ,軍手使用,テント内整理の5項目を審査しました。

・ テント袋はもちろんですが,テントマットやフライも強風を想定すると,放置しておくことは避けるべきです。重しやザックなどを上に載せて飛ばさない工夫をすることが必要です。

・ ペグの打ち込み角度や張り綱の張り具合も,一晩過ごす場としては,大切な点です。風雨に耐えられる確実な設営を目指してください。

・ 今回は,審査対象としませんでしたが,完成の際には,テント入口は完全に閉めておくようにしてください。(風雨想定)

B.炊事

    火器の扱い,コンロ台・風防板の有無と扱い,食糧計画との一致,ゴミを出さない工夫,食料の区分けの5項目を審査しました。

・ 火器使用時の手袋着用は概ねできていましたが,食材追加の際に鍋を押さえていないチームがあり,大変危険でした。また,火器使用時には,常に火のそばから離れない意識が必要です。

・ 風防板はあるが,風向きを考慮してないチームや,その高さが低すぎて風防としての役割を果たしてないものがありました。手作りの風防板など工夫が見られたチームがある一方で,風によって簡単に倒れてしまう風防もあり,固定方法も含めて適切な扱いをしてください。

     コンロ台についても,その用途から火器を安定に保つことのできる素材とサイズにする必要があります。

     事前の半調理や食料の区分けは,ともに炊事時間の短縮や,ゴミを出さない・持ち込まない工夫という観点からも大切なことです。普段の山行でも限られた時間の中で,美味しく栄養のある食事をつくることを心がけてほしいと思います。

 

6.気象 (7点 天気図5点 設問2点)

・ 設問については,気温減率・体感温度・低気圧について・四季の典型的な衛星写真画像について出題しました。毎年,同じ傾向の問題が出題されていますので,よく勉強してください。

・ 天気図については,日頃から書き慣れているかどうかが差に表れました。最近は,インターネットなどで容易に天気図などを入手することができ,天気図を書く必要がないとも思われますが,大切なことは,天気図から何を読みとるかです。天気図を書くことによって,天気図がより正確に読めるようになります。継続的に天気図を書くよう心がけてください。

 

7.計画・記録 (8点 計画3点 記録5点)

A.計画

・ 計画書に記載すべき項目のうち,緊急連絡先・共同装備の分担・予備食の記載・手書きの概念図・断面図(西岳,青年小屋の記載)・医薬品リストの風邪薬と試用法の記載の6項目を審査しました。

・ 共同装備表については,装備品の記載はありますが,その分担が記載されていないチームがかなりありました。分担を明確にすることは,装備忘れ防止,担荷重量の確認,サブ行動時の共同装備分担などの際に必要になります。

・ 計画書は,事前の食糧購入,装備確認のほか,山行中にも随時,ルート・日程やサブ行動時の装備などをチェックするためにも用います。下山までの必要事項が簡潔で見やすく記載された計画書を作成し,チームの行動に生かしてほしいものです。交流会等で他校と計画書を交換しあい,良い点を学んでください。

B.記録

 ・ コース上の主要5地点において,各2項目ずつ選び,その項目の記載の有無と内容を審査しました。(出発地点での体調と天候,不動清水での地点名と主な動植物,西岳山頂での着・発時刻と体調,編笠山頂での地点名と地形展望等の記事,観音平着時刻と天候)

・ 出発時の記録のないチームがかなりありました。出発時の時刻や天候,メンバー全員の体調は記録しておくべき項目です。

・ 通過地点であっても,ルート上の明確な地点名(不動清水,雲海など)は名称で記録する必要があります。

・ 大会では,基準記録用紙にまとめて提出することにしていますが,本来は,各人が行動記録帳(メモ帳)に記録するものです。日頃の山行から,要点を押さえた記録をとり,以後の山行に役立てるようにしたいものです。

 

登山競技を通して,各校での活動が一層充実したものとなることを願っております。

以 上